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パーキンソン病は1817年ロンドンの医師JamesParkinsonが初めて記載した特異な運動障害を伴う高齢者に多発する神経病である。筋肉が固くなり(rigid-ity),動作が緩慢となって(akinesia),しかも静止時にふるえ(振戦tremor)が認められる。1959年以来の患者剖検脳の生化学的研究によって,症状の直接原因は黒質線条体系ドーパミン作動神経の神経伝達物質のドーパミンの減少であり(nigrostriatal dopamine deficiency),ドーパミン減少の生化学的機構は生合成酵素のチロシン水酸化酵素とその補酵素テトラヒドロビオプテリンの減少によるドーパミン合成減少によることがわかってきた。しかし,この酵素と補酵素の減少は黒質線条体系ドーパミンニューロンの変性の二次的障害か否か?神経変性や酵素や補酵素の減少の直接の原因物質は何か?は依然疑問のままである。
メチルフェニルピリジン(1-methyl−4-phenyl−1,2,3,6-tetrahydropyridine, MPTP)は,1983年以来,全く偶然に麻薬常用者の事故によって発見された,ヒト,サル,マウスなどの動物で,自然発症のパーキンソン病と区別のできないほど類似したパーキンソン症候群をおこす黒質線条体系ドーパミンニューロンに特異的な神経毒である。MPTPは1947年に合成されたが,1983年までそのパーキンソン症候群発症毒性は全くわからなかった。1977年に,米国の23歳の化学科の学生が自分で入工ヘロインのメペリジン(1-methyl−4-pheny1-4-propionoxypiperidine)を合成して使用した結果急性のパーキンソン症候群をおこして米国国立予防衛生研究所(NIH)の病院に入院した。その症状は自然発症パーキンソン病と類似しており,L-ドーパが著効を示した。患者が自分で合成したメペリジンを分析したところ合成上の誤りでMPTPが混入していることがわかった。MPTPがパーキンソン症候群の原因物質と推定されて,ラット,モルモットなどの小動物に投与してパーキンソン症候群をおこすか否かが実験されたが成功しなかった。後に述べるように,これら小動物はMPTPに抵抗性が高くパーキンソン病を発症し難いからであった。この症例は"Psychiatry Research, Vo1.1, p249,1979"に報告されたが当時は注目されなかった。
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