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Ⅰ.はじめに
脳卒中によっておこる片麻痺は中枢性麻痺の代表的なものである.成人における片麻痺にはこの他に脳外傷,脳腫瘍,脳膿瘍などによるものもあり,これらの示す症状はいくつかの細部において脳卒中後の片麻痺と異っておりそれ自体興味ある問題であるが,基本的な点についてはこれらの片麻痺も脳卒中によるそれと一致している.小児における片麻痺,すなわち出産障害(脳性麻痺)による痙性片麻痺あるいは急性小児片麻痺も原則的な点については脳卒中後の片麻痺と共通する面が多いが,小児の運動障害が本質的に発達障害であることを反映して,症状の現れ方の上でいくつか異った点もある.また更に同じ中枢性麻痺である脊髄性の不全麻痺(外傷,脊髄血管障害,SMONなどによる)では中枢性麻痺としての共通性とともに脊髄障害の特異性がかなりみられる.更に脳性麻痺の痙性対麻痺(paraplegia)あるいは両麻痺(diplegia)となると,脳性の対麻痺として,成人の片麻痺とはかなり違った面が目立ってくる.
以上のように同じく中枢性麻痺であっても,罹患時の年令(発達障害の有無),中枢の障害部位の差,原因の差などにより色々な相違を示す.しかし一方,中枢性麻痺としての共通な側面がこれらを通じて厳然と存在していることも事実である.このような共通性と差異との存在をよく理解した上での比較研究,すなわち,成人片麻痺と小児の片麻痺,あるいは片麻痺と不全対麻痺とを単純に同一視するのでもなく,また逆に全然別個の現象として関連なく扱うのでもなく,それらの間の区別と連関を探りつつ比較研究することによってはじめて全体像としての中枢性麻痺をとらえることができ,逆にそのような全体像の中に位置づけてはじめて,片麻痺ならば成人片麻痺の本態も全面的に把握することが可能となろう.
もちろんこのような全体像は一挙に獲得できるものではなく,個々のものの忍耐強い検討を通して構築されていくものである.現在そのような検討がもっとも進んでいるのは成人片麻痺,特に脳卒中後のそれについてである.本論文では中枢性麻痺の全体像を探る作業の一環として,脳卒中後片麻痺の障害学あるいは病態生理を検討することとしたい.なお筆者はちょうど5年前に本誌の脳卒中特集増刊号に「中枢性まひの症候論と病態生理」1)という論文を寄稿したが,ここではできる限り重複を避け,前回詳しく論じたところは簡略に述べ,5年間のこの分野の進歩も含めて前回の論文では十分に触れていない点に重点を置くこととした.その意味で,本論文の読者は前論文をもぜひ御参照いただきたい.
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