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はじめに
進行性筋ジストロフィー症に対して,過去においては,リハビリテーションの必要性については論議されてきた.しかし,近来,その必要なことについて異論はなく周知のように本邦においても,国の施策の1つとして全国各地の国立療養所に筋萎縮症児収容施設が設置され,その数20余,収容患児も2,000名に及ばんとしている.
本症に対するリハビリテーションの要締は本症が不断に進展する宿命的な疾患とはいえ,比較的長期にわたるものであり,筋の廃用性萎縮の進展,変形の増悪阻止に努め,残存機能を活用し可及的長期にわたり自活能力を保持せしめるよう導く点にある.このような理念のもとにプログラムが展開されるわけであるが,この際,患児の養護,教育,管理などに関し,当然,病態を十分考慮し,目的を円滑に達成させる適切な方法,機器が労務管理の問題を含め検討,工夫されねばならない.ここに上記収容施設に関連して,私共が検討を加えてきたリハビリテーション工学上の問題,とくに,上述,機器に関し衣服の問題を含めて述べることにする.以上は本症のホームリハビリテーションに関しても,関連し(本症患児が収容施設のみに依存することは論議されるところであり,私共も家庭での必要性,ケアーをも併用し,この点を重視するものである)重要な問題であると考える.
本症のリハビリテーション工学に関連せる病態ならびにADLについて:本症の病態の特徴は一言にしていえば,“筋が不断に荒廃する”痼疾であるといえる.筋の減弱,荒廃の様相を表1に示すが,本症の代表的な3つの病型のうちもっとも普遍的なDuchenne型については,臀筋,肩甲帯筋などが早期より侵され,頸前屈筋,腹筋なども特異的に初期より減弱し,骨盤,躯幹の安定性が失われ,四肢の中枢側筋より末梢側筋にかけ不断に変性,荒廃は進展する.しかし,頚伸筋,腹筋,後脛骨筋,ハムストリングス,腓腹筋,さらに,手指の固有筋などは比較的よく温存され,最後まで比較的よく機能を保持する.上下肢では一般に伸筋が屈筋に比し強く侵され,このような筋力減弱のimbalanceに加え,筋の変性,荒廃による退縮,拘縮が加わり,一般に屈筋優位の拘縮,変形が惹起される.この拘縮,変形に関して一番厄介なのは脊柱,胸部の変形であり,その発生については,筋力減弱のimbalanceのほかに神経系の関与,坐位姿勢など種々の要因が考えられる.
以上の特異的imbalanceのもとでの筋の減弱,ならびにその進展により,ADL動作の障害がつぎつぎと現われてくる,他方,残存筋を活用せる特異な様相を呈してくる,起立にさいしての登攀性起立,動揺性歩行,とくに腰椎前弯,尖足内反位でのスタンス,下肢内旋位歩行,肘を過伸展しての這行など成書に記載されている本症の特異な症候も,上述,筋力の減弱のimbalanceを補い,残存筋の活用を図る特異な所作であると考えられる(図1).
よって,本症に関して,その養護,管理機器を考慮するに当っては,上述,本症の筋力学的機構の破綻を十分考慮することは,当然,肥満,るい痩などの栄養学的,あるいは,心理障害に対する心理学的対策が組み入れられた綜合的視野に立脚したものが考慮されねばならない.
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