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はじめに
正常歩行をするには,先ず筋力の強さ,耐久力が一定以上あること,関節の正常可動域が保持されていること,それに運動の協調性があること,等があげられる.
歩行運動を遂行する力源となるものは筋であるが,その筋活動を生み出すには運動神経からの遠心性インプルスの伝達が必要である.筋の電気的活動が運動となるには,運動器を構成しているテコシステム(leverage system)が必要である.最小のテコシステムは2個の骨と,それを連結する関節からなっている.仮りに筋がこのようなテコシステムと結合していないと,その筋の収縮は単に電気化学的現象にすぎなくて,皮膚の下にふくらみをつくるだけである.
筋線維は脊髄のなかにある前角細胞(α運動細胞)からでている末梢神経のα運動線維から神経支配を受けている.われわれは運動をおこなう場合,とかく筋肉そのものに焦点をあてて考えがちであるが,運動源としては運動単位(motor unit)をつねに考えてみる必要がある.
運動単位は前角にあるα運動細胞と,そこからでている遠心性の運動線維,そして筋神経接合部と筋線維とからなっている.このなかのいずれか1つでも障害のある場合は,運動はうまくできない.というのは筋線維は運動神経からの正しいインプルスなしでは活動しないからである.筋活動による運動を目的ある動作にするには中枢神経からの遠心性線維に伝達されるインプルスの統合が必要である.つまりインプルスが伝達して筋に収縮が開始するタイミング,その収縮する強さ,そして収縮する期間―それらの要素がいくつかの筋群に正しく作用して,目的動作がおこなわれるために必要なインプルスの抑制もおこなわれなければならない.最初に目的動作を開始するときは―それも特に初めておこなうような動作においては―運動の強さとか,持続時間,そして開始時間を今までの経験からおおよそのことを計算しておこなうのが普通である,そしてその計算通りにおこなってその運動がスムースにおこなうことができれば,それは協調性ある動作となる.もしそうでなければ,よりよい協調性を得るように,何時動かし始めて,どれ位の強さで動かし,そしてどれ位の時間動かし続けるかの計算を修正することが必要である.その修正の必要性とか,どのように修正するとかの指標はguiding sensory systemでおこなわれる.
このシステムはsensoryを受け取る能力とこれらのsensoryを正しいmotor directionに解釈し,判断させる能力とからなる.
歩行は複雑な目的動作であり,各要素が正常な機能を有して始めて,スムースで効果的な運動パターンができる.
運動に必要な要素は次の通りである.
①motor Unit(運動単位)
②leverage system(骨のテコ機構)
③sensory reception(知覚入力)
④sensory interpretation(知覚判断)
⑤central motor control(中枢の運動操作)
これらの要素が1つまたはいろいろな組み合せでもって障害されると,歩行障害が出現する.
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