The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 7, Issue 11
(November 1973)
Japanese
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はじめに
脊髄損傷はいろいろの原因によっておこるが,その大部分は外傷による脊柱の圧迫・骨折等のための脊髄の破壊である.したがって最近の我国の社会的実情から考えて,脊髄損傷の患者はますます増加するであろう.
脊髄損傷患者に対する我々PTの治療プログラムは,まず完全損傷か不完全損傷かによって大きく異なる.完全損傷であれば損傷の部位,年齢,性等の因子によって,さしたる間違いなくその患者の治療プログラム,ゴールを設定することができる.そしてこのような完全損傷による対麻痺患者のPTのプログラムは完全に遂行され得るようになってきている.しかしながらそのプログラムを消化し,治療としてはゴールに達した患者が次にどうするか,そこには今日なお大きな問題が横たわっている.私は1969年福島市で開催された日本理学療法士学会で,脊髄損傷患者の問題点を指摘し,我々の協会で全国的レベルの調査を行ない問題点の解決のためいろいろの機関に働きかけようという提案をした.これは残念ながら実現しなかったが,各々の地域において部分的な調査が行なわれ,徐々にではあるが問題点のいくつかは解決されつつある.最近の学会においてもこうした傾向が強く見られ,PTの治療の結果をより十分に,より効果的に続かせるための配慮がとられている.完全なリハビリテーションチームが作られていない所が多い現在の日本では,我々PTが一番豊富なデーターを持ち,最も理解力のある協力者でなければならないし,このことがとりもなおさず私達の行なった理学療法の結果を活かすことでもある.
脊髄損傷患者の大きな問題点は,
A 生活環境の整備.
B 尿路及び皮膚等に対する医学的管理.
C 生活範囲の拡大(社会との結合).
D 生存の目標(生きがい).
等が挙げられる.生活環境については,数多くの研究が報告され基本的事項については,ある程度の結論がでているし,最近では“総合リハビリテーション”にも見られるように,工学者,建築家,室内デザイナー等による専門的考察が紹介されている.PTはより正確なデーターの提供者となり,解決はそれぞれの分野の専門家に依頼できる日がすぐそこまできている感がする.
さて私達の所でも退所後の方針とか改造の方法等についてPT部門にかなりの負担がかかっている.およばずながらもいろいろと方法をとってきた.今回は脊髄損傷患者のうちでも移動が車椅子でなければできない患者に対してどうしてきたか,2,3の症例を報告する.基礎的データーの対象としたのは昭和40年7月20日開所以来,昭和48年5月31日までに入所した患者401名のうち脊髄に損傷を受けた者86名で,このうち車椅子で移動するもの65名である.
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