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はじめに
私は,1968年11月から1970年4月まで,東大リハビリテーションセンターで,精神科的相談に応じてきた.それは週1回半日わずか2人の患者さんを,おもに診察室場面でみるという,ごくかぎられた仕事にしかすぎなかった.しかしちょうど東大闘争のさなかでもありヘリコプターの騒音を耳にしながら,私はとまどいとある種のきおいを胸に,今まで経験したことのない,新しい状況下での診療を行なった.
それはかけがえのない私の体験となった.そこでは今までつきあったこともないPT,OT,ケースワーカーとよばれている人たちとも,友だちになった.そしていわゆるリハビリテーション医学というもののもつ,いろいろなむずかしい課題についても,門前の小僧で,少しはのぞかせてもらった.ただこの乏しい体験をもとにして‘脳卒中後遺症の精神症状’についての総説をものにすることは,いかにもおこがましい.適任でもない.
しかし,私自身もふくめて精神科医は,従来あまりにも精神病の殻にとじこもっていた.身体医学のなかに,もっとさかのぼって医療の原点に足を踏み込み,悪戦苦闘したことがなかった.一方,大学を中心とした現代医学も,ますます専門化,細分化,セクト化してしまい,各科の距離は増大し,大声をはりあげても,はたしてどこまでその声がとどくものであろうか,とどいたとしても,そのことばをどこまで理解しうるのかもわからない.その深い谷間に患者ははまりこみあがいている.
そのようななかにあって,上田先生はじめ東大リハビリテーションセンターの諸兄姉は,開放的に私をうけいれて下さった.そのご厚情にむくいる意味もあって,あえてここにすすまぬ筆をとったしだいである.
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