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はじめに
てんかんが行動に及ぼす影響を理解するためには,生物学的な側面と心理・社会的な側面双方からの複眼視的な見方を常に持っておくことが不可欠である。てんかんに伴う精神症状・行動障害は,脳という視点から読み解くか,家庭や職場での対人関係やそれまでの人生行路のあり方という視点から読み解くかで大きな対応の違いが生ずる場合がある。脳の変調に由来している問題に関して,精神療法的なアプローチがあくまでも補助的な役割を果たすに過ぎないのに対し,対人的な葛藤やある種の自己実現,自己決定に由来している問題が精神療法的なアプローチを必要とするのは当然であろう。現実のてんかん臨床においては,当然いくつかの異質な読み筋が複合的に交錯している。しかし昨今,精神科領域において急速に普及したDSM(diagnostic and statistical manual of mental disorders)的な診断手法では,すべての読み筋が並列的に取り扱われるため,個々の問題の有機的なつながりがしばしば読み損なわれ,患者・家族が直面している当座の問題に対してどの読み筋が最も戦略的に重要であるかを俯瞰する姿勢がしばしば欠けることとなる。てんかんの精神症状のような錯綜した問題系にアプローチするうえでは,こうした欠陥は時に大きな混乱をもたらすことになる。
てんかんにおける精神症状の治療は,まず何よりも抗うつ剤や抗精神病薬を処方する前に,何が起こっているのかを把握し,抗てんかん薬の調節を試みるのが先決である。
今回は,『精神療法』(2010年36巻12号p763-768)および『医学のあゆみ』(2010年232巻10号p1086-1091)に掲載した論文を下敷きとして,てんかんの精神症状に対するアプローチを論じたことを断わっておきたい。
Abstract
Biological and psycho-sociological perspectives are crucial to the complete understanding of the influence of epilepsy on human behavior. In epilepsy,mental dysfunctions caused by direct damage to the brain can be classified into 3 components on the basis of the causative factor: underlying disorder,epilepsy itself,and antiepileptic drugs. Here,we emphasize that for people with epilepsy,the first step of any effective therapeutic approach to psychiatric symptoms is a comprehensive holistic survey of their life to identify the most imminent problem hindering their goodness of life.
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