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はじめに
脳卒中後の片麻痺のリハビリテーション(以下,リハと略記)を行なうにあたって心機能の状態を常に考え,障害の出現をできるだけ早期に予知し,その対策を平行してすすめながらリハ訓練を行なうことがきわめてたいせつであることは今さら改めて述べるまでもないが,では具体的に個々の症例について,それぞれの運動訓練をどの程度にやってよいかという問題になると実際にはなかなかむずかしく,客観的基準が的確に決まっているとは必ずしも言いにくい.筆者も七沢病院発足以来数年の間この問題を心電図や酸素消費量測定などの方法を使って試行錯誤的に検討してきたが,正直のところいまだに暗中模索の域を脱せず,そのむずかしさを今さらのように感じているしだいである.
その理由のひとつは運動麻痺の程度が症例ごとに異なるために基準量の負荷を与えるということがなかなか困難であるということと,さらに他の理由としては心疾患または心機能障害そのものが多様性に富んでいるということに根ざしていると考えられる.ちなみに,心不全とよばれているものを取り上げてみても,図1に示すようにいろいろなものが含まれている.このうち,老人に多い慢性の呼吸器疾患に由来する右心不全と心弁膜症あるいは高血圧その他によって起こる左心不全とではその初期の症状にかなりの相違がある.また,虚血性心疾患とよばれる冠状動脈の血流におもな原因のある場合は,表のように左心不全を起こすほかに狭心症や心筋硬塞といった全く別の種類の症状も起こしうる.
このように脳卒中後の片麻痺患者では麻痺の程度がさまざまであることに加えて,心機能の障害の質も程度もいろいでろあるためにそのリスク管理もまたなかなか単純な公式でわりきるというわけにはいかないことをまず最初に認識していただきたいと思う.しかし,だからといって全くなんらの基準ももたないのでは,われわれはどうやって患者の起こしうる危険を未然に防いでよいのかわからなくなってしまうので,一応現在の時点で筆者が比較的妥当ではないかと考えている試案を示しておくことにしよう.ただし今後さらに数百例,数千例と経験がつまれてゆけば,あるいはこの試案ももっと違ったものに改正する必要が生じてくるであろうことをあらかじめお断わりしておきたい.
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