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はじめに
現代は電化時代であり,われわれの生活から電気を取り去ってしまうと大混乱に陥ってしまうことは,最近のニューヨークの停電事件がよくこれを物語っている.電気がなければ,自動車も飛行機も動けず,交通は徒歩以外になく,テレビ・ラジオも用をなさず,高度に電化された社会機構は一挙に荒廃に帰してしまう.思えば電気を左右する力は,人間にとって貴重なものであり,人間の偉大なる発明である.
静電気は自然現象の1つとしてその存在を認識されたが,われわれが現在利用しているエネルギー源としての電気は,人間が創造した偉大な産物である,といっても過言ではなかろう.特に交流電源は,その最たるものである.また,電気理論は,物理や化学の分野のみならず,人間を含めた生物の諸現象の理論づけにまで発展した.それにもかかわらず,現代人にとってすら,電気というものは,一般に何か神秘なものというイメージをぬぐい去れないのであるから,昔の人はもっと異様に感じたはずであり,その時代の先覚者をもって自認していた医師が,これを利用しなかったはずはない.事実またそのとおりで,19世紀半ばごろまでに電気生理のほとんどを実験し,現在にまで用いられている平流療法や感伝電気療法などが確立されてしまっていた.
今でこそ電気は,工学的に利用されることが多いが,つい20-30年前までは,むしろ医学的利用のほうが進歩していた,と考えられるくらいである.しかるに,最近の半導体の理論的技術的発達は驚異的で,文字どおりの日進月歩であり,1日のおくれは多大の損失をもたらすほどである.それにもかかわらず,医学会においては,ME学会の設立で,やっとその後塵を拝しているにすぎない.この点は,大いに医学者の猛省が必要であろう.そのうえ,MEの分野においても,その性質上,診断的利用に重点がおかれ,治療面においては,思わしい発達はみられず,飛躍的といわれるものはほとんどない.それは,人間の生命の尊厳性や生体の順応性によるとも思われるが,医師の怠慢に負うところが最も多く,現在でもこの点はあまり改善されていない.この点はME関係のみでなく,医学全体としてもいえることで,病気の診断法は大いに発達したが,治療としては,細菌に対する化学療法以外に内科的にはみるべきものが少なく,あっても研究過程にすぎない.
実際に電気療法器械を取り扱うには,高卒程度教育の電気の知識があれば十分である.しかし,理科は必ずしも実用にならない面が多いらしく,医師すらこの方面の知識については十分とはいえない.まして,理学療法士についてはなおさらである.そこで,この方面を担当しているものの1人として,菲才ながら筆をとったしだいである.
以下,電気療法について6回にわたり述べる予定であるが,本文にはいる前に,基礎的な実用的電気理論について述べることにする.
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