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I.はじめに
鰓性器官の残遺に起因する先天性の頸部嚢胞や瘻孔は日常しばしば遭遇する疾患で,鰓性器官の種類に応じてさまざまな症状を示す症例やその成因についての考察が耳鼻咽喉科領域から多数報告されている。その一つに比較的稀れなものとして第4鯉裂由来と考えられる咽頭梨状窩瘻に由来する先天性側頸瘻の症例が存在する1〜3)が,1976年稲垣ら4)は第4鰓嚢性内咽頭瘻の発生,臨床およびその意義についての論文の中で,左咽頭梨状窩につながる頸部瘻孔の炎症が急性化膿性甲状腺炎(acute suppurative thyroiditis, AST)として取り扱われることがありうるとして,初めてASTの有力な原因として咽頭梨状窩内瘻が関与することを指摘した。翌年藤本5),堀ら6)もASTからの膿瘍が体表に自潰した症例にやはり咽頭梨状窩内瘻を認めたことから,先天性頸部瘻疾患としての咽頭梨状窩瘻孔の炎症が甲状腺に波及したものがASTの本態と考えられるようになった。その後も同様の所見が相次いで発表7,8)され,現在ではASTの基礎疾患として咽頭梨状窩内瘻の存在が広く知られるようになった。しかしASTはほとんどが小児に発生する関係上小児科を受診し,外科で瘻孔摘出術を受けるケースが大部分である。したがって耳鼻咽喉科医が本症に遭遇する機会は少ないと考えられがちであるが,成瀬ら9)によるとASTと診断される以前に与えられた病名のうち最も多いのは耳鼻咽喉科に関係した急性咽頭炎,左急性中耳炎などである。このことは耳鼻咽喉科医が本症に係わる機会が少なからず存在することを意味している。そこで私たちは今回最近経験した本症について症例報告し,同時に本症の特徴について文献的に調べた詳細を述べ,今後の耳鼻咽喉科診療の一助としたい。
A 5-year-old patient presented an acute painful tumor in the anterior part of the neck. It was a diffuse, firm tumor with warm erythematous skin, and the laboratory, radiologic findings showed acute inflammation of the left thyroid lobe.
Barium swallow showed a very thin fistula originating from the apex of the left piriform sinus extending anteroinferiorly. This fistula was considered to be a route of infection in acute suppurative thyroiditis, allowing bacterial infection in the perithyroidal space and spread to the thyroid gland.
The complete fistulectomy was required for parmanent cure, but administration of antibiotics was also very effective in this case.
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