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I.はじめに
1961年Lenzは当時西ドイツで多発していた重症四肢奇形は妊娠初期の母体がサリドマイド剤(α-phthalimido-glutarimide)を服用することによって生じたものと考えられることを発表し,一躍世の注目を浴びるところとなった。わが国でこの薬剤が市場にあったのは1958年1月20日から1962年9月13日までの4年8か月間である1)。この間多数のサリドマイド被害児が生じたと推定されるが,生存例で厚生省サリドマイド胎芽病認定判定委員会(委員長土屋弘吉横浜市立代学教授)によってサリドマイド胎芽病と認定されたものは309名である。著者も判定委員会の一員として参加し,その後はサリドマイド被害者福祉財団「いしずえ」の仕事の一環である健康管理研究会で耳鼻咽喉科領域の精密検査を担当している。
サリドマイド胎芽病(thalidolnide cmbryopathy)については耳鼻咽喉科領域でも1960年代にドイツを中心に詳細な報告がなされている。しかし当時の報告は調査対象が乳幼児であったために実態があまり明らかにできぬまま今日に到っている問題もある。一方わが国では鈴木ら2,3),竹森ら4)の報告があるがいずれも数例の報告にすぎず,したがってわが国のサリドマイド胎芽病の耳鼻咽喉科的問題については断片的にしか知りえない。かかる現状に鑑みかつ著者はわが国のサリドマイド問題に直接関係した唯一の耳鼻咽喉科医として,サリドマイド胎芽病の実態を今日的視点で明らかにすることに大きな責任を感じてきた。本論文は1983年7月までの間に扱った137名についての報告である。
137 patients who had been registered as victims of thalidomide in Japan were examined from the otolaryngological viewpoint. 91 of the 137 cases had abnormalities of the external ear and /or cranial nerves such as abducens nerve, facial nerve and statoacoustic nerve. 59 of these 91 cases were associated with deformities of the extremities, while the remaining 16 had no otolaryngological defects besides malformation of the extremities. 79 of the 137 patients had sensorineural, conductive or mixed deafness, bilaterally or unilaterally. It was found that thalidomideinduced sensorineural deafness is characterized by high tone loss which begins from 8 kHz and extends to the lower frequency range.
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