鏡下咡語
釣りと人生—自然の中で健康を釣る
網 幸一
pp.140-141
発行日 1976年2月20日
Published Date 1976/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492208314
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風のない暖かな日和でも,山あいの渓谷はまだ寒く,手がかじかんで餌をつけるにも思うようにならない。口に手を当て,ハアハア息を吹きかけて餌をつける。その頃にはもう崖の日だまりにフキノトウが真青な姿を見せている。水が冷たいので魚の動きはにぶいのだが,それでも岩魚,山女魚となると非常に敏感に人間の動きを感じとつているようである。抜き足,差し足,忍び寄つて見ると,魚はすでに淵のかげに逃げ腰でいる。
魚の視覚はもちろんだが聴覚は内耳と側線と,体内の鰾で感じ低音は人間よりも5〜6dBくらいよく聞こえるという。それにしても,岩に砕けるあの大きな水音と,白く泡立つ水中で,さつと身をかわして逃げていく姿は,まさに「渓谷の女王」そのもの,いいしれぬ気品と,神秘的ともいえる美を備えている。
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