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悪性腫瘍は周囲との調和を破つて広範囲に腫瘍が進展し,また原病巣、は比較的限局していても遠隔部に転移したり,全身的にも窒素,糖や脂質などの代謝偏倚をひきおこす。
診断は個々の症例について予後の判定と有効な治療法の決定であるが,最近の頭頸部がん治療の進歩で生存期間も延長したため,初診時の腫瘍診断はもちろん治療中毎日の効果判定から,その後長期間経過を観察して再発や合併症の早期発見,また末期がん症例も含めた精神身体医学的診断など幅広いものである。頭頸部は呼吸,発声,摂食など人間が生活活動をするうえに重要な機能を持ち,しかも顔を形成しているからこの部に生じた腫瘍の治療にあたつて,がんの根治が前提であると同時に形態と機能保存にも考慮を払う必要がある。耳鼻科医は手術を専門として周囲健常組織とともに一塊として腫瘍を摘出する上顎全摘出術,喉頭全摘術や頸部郭清術など広範囲手術を実施していたが,進展例で腫瘍を取り切れない症例もあるし局所再発も少なくない。制癌剤もいろいろ新しい薬剤が開発されつつあるが現段階で頭頸部がんを治癒させる制癌剤はまだない。幸いに頭頸部がんには放射線感受性の高いものが多く,最近の超高圧放射線治療装置の普及と照射技術の向上なども加えて照射で手術の成績以上の治癒率が得られるものもある。扁桃は細網肉腫が多く照射単独で済むが扁平上皮癌症例では根治照射後も腫瘍残存もある。舌口腔底,喉頭,下咽頭の扁平上皮癌例に照射で済むものが多いが腫瘍残存,再発のため広範囲手術が必要の症例もある。上顎はその解剖学的構造から照射はもちろん手術を併用しても成績が悪く欧米では今日でも依然として高線量照射と眼球摘出も含めた広範囲手術の併用の報告のみでみるべきものはない。しかしわが国で開発された三者併用療法は治療成績が格段と向上し広く実施されだしたが,一次治療で腫瘍が消失しても再三処置必要例もあるし腫瘍残存例に清掃処置だけで経過良好の症例も少なくない。一次治療の重要性はもちろんであるが臨床医にとつての課題はむしろ既治療再発例や末期がんの処置である。これらの症例は各種条件が複雑に入り混じり一すじ縄ではいかないため,悪性腫瘍の本体を知るためいろいろ基礎的実験もそれぞれの専門分野で進められている。
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