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昭和26年,私は立木豊先生の教室に入局しました。その当時,東北地方会は年に3〜4回,あの古い,暗い講堂で開かれる事になつていました。何回目かの例会であつたか忘れましたが,確か山形県の故,菊池三通夫先生だつたと思います。「難聴と肝臓病との関係」という演題を発表されました。その内容は東洋医学特に,漢方の立場から見た,胆系と難聴との関係という事だつたと思います。当時,われわれ若輩にとつて,その内容は余りにも飛躍し過ぎているために,非科学的な事を発表する先生もいるものだと反撥を感じた事を覚えています。しかし,私もそろそろ50歳に垂んとする年輩になり,丁度菊池先生の年齢に達する頃となり,その心境も解る様になりました。やはり,われわれの心の奥には,東洋医学に対する憧れが心の底に沈澱していたためかもしれません。あの当時から,時間はどんどん過ぎ去り,私は医局を去り,国立病院勤務,それから開業。そして間もなく開業以来15年目を迎える様になりました。開業後も,何か勉強しなければと考え,まず,ノイロメーターを用いた"つぼ"の実験を試みました。夕方の6時頃から,電子工大の学生と2人で"つぼ"の特性は何か?また良導絡学派の先生のいつている事が本当かどうかを試したいと思いました。その結果,"つぼ"は電気抵抗の低い部分であり,それは丁度,皮膚損傷部位に相当する部分であろうという事が解つてきました。すなわち,"つぼ"は細胞膜の損傷部位では膜電位の透過性亢進を示し,皮膚抵抗が少なくなるものと見做す事ができます。ただ,不都合な事は,皮膚に外力を加えると新しい"つぼ"が生じてくる事があり,診断上の指標としては不適当である様に考え,以上の勉強は中止しました。次に,臨床上の必要から,頭痛の研究を始めました。何故,必要かと申しますと,鼻性由来の頭痛であると考えて来院する患者が非常に多く,この中にはまつたく,所見を発見する事ができない症例もあります。この様な,症例に対して手術を施行しますと,再発する例が多く,患者は方々の病院を歩き回り,さらにPoly-Surgeryを受ける事となります。したがつて,私は今後,頭痛の問題は耳鼻科医にとつて重要な課題になるものと考えています。
さて,頭痛の研究に当つては,耳鼻科医だけでは困難であり,脳内科,脳外科,眼科ならびに歯科医などの各専門医の協力を得る事が大切です。すなわち,1人の患者について,各専門的立場から情報を呈出して,綜合的に判断する診療方式を採用しました。しかし,以上の方法を行なつても,余り期待するほどの効果を挙げる事ができませんでした(たとえば,脳内科医の指示によつて脳波検査を施行した114名の患者の中,異常所見を認めたのは,4名であり,3.5%の少数例であつた)。以上の様な暗中模索している中に,偶然,或る鍼灸士と会いました。その鍼灸士は,東北大生理の故,本川教授の所で勉強され,西洋医学にも詳しい篤学の士であり,盲人の1人です(現在,鍼灸士の大部分の方は,医学用語に関する知識という点で,われわれと一緒に議論する事が困難な場合が多いと思われます)。したがつて,この鍼灸士との出会いは,私に取つて幸運な事だつたと思います。そこで,この人と一緒になつて,各科受診の場合と同様な方法で頭痛の研究を進めて見ました。
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