扉
或る試み
太田 富雄
1
1大阪医科大学脳神経外科
pp.507-508
発行日 1980年6月10日
Published Date 1980/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201159
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○ 最近,患者と医師との間の人間関係が悪くなったと,患者サイドからも医師の側からも嘆く声をよく耳にする.医療が近代化され,優秀な各種補助検査法の導入,および専門化が進んでくると,昔のように"脈をとってもらう"とか,"手当をうける"という言葉で表現されるような温かい感じのする医療行為は少なくなってきた.患者の訴えや家族の話をよく聞き,聴診器,ハンマーなどを駆使し,患者の体を"すみからすみまで"たっぷり時間をかけて診察しなければならなかった時代には,はだかになった患者と医師の間がうまくいかないほうが不思議なくらいであったのだろう.
これに反し,現代の医療はどうだろう.補助検査法といわれたものが"補助的"でなく"決定的"検査法になってきた.このことは患者のほうもよく知っていて,優秀な医師がいるということもさることながら,最新の医療設備を備えた病院に集まる傾向にある.確かに最近の医療は,疾患それ自体に対しては適切なものとなったのであるが,この的確な診断は,"脈をとる"式の方法でなく,機械の関与が大きくなったところに問題があるのである.あの検査,この検査といろいろな部屋を廻っているのでは,患者と医師との人間関係が薄くなり,そこに摩擦が起こったとしても,さして不思議はなかろう.
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