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I.はじめに
口蓋裂は顎,顔面領域に発生する頻度の高い先天奇形の一つであることは周知のことである。本疾患は,単に,口蓋の破裂という器質的な異常のほかに,鼻腔と口腔が交通している結果,十分な口腔内圧を得ることができず,吸啜・嚥下・言語などの機能の障害を合併する。
これらの機能障害のなかで,吸啜・嚥下などの障害が,早期に,代償機能の獲得によつて改善されるのに比較して,言語機能の障害は,たとえ,それが代償されたとしても,言語はひずみ,口蓋裂患者特有な言語障害を後遺する。
したがつて,口蓋裂患者に対する治療は,言語障害の回復を主眼として行なわれなければならない。
そのために,口蓋形成手術は,口蓋の破裂部を閉鎖し,形態的回復を図ると同時に,言語機能の回復に不可欠である鼻咽腔閉鎖機能の十分な改善を図るよう努力がはらわれており,また手術時期についても,言語発達の早い時期に手術を行なうことによつて,言語障害の発生を予防し,さらに,不幸にして言語障害を生じたとしても,その改善を容易にするよう,早期手術が推奨され,一般に広く行なわれるようになつてきた。
しかし,早期手術患者においても,言語障害の発生が予防し得るからといつて,ただ術後放置するのは望ましくなく,手術後,正常な言語を学習できるよう適切な指導が必要である。
そのような早期手術患者を対象とした口蓋裂患者の言語治療は,従来一般に行なわれている方法をそのまま用いることは不適当であり,正常な言語発達を促進する新しいシステムへ変更することが必要となる。
以上の観点から,本稿では,口蓋裂患者の言語障害の発生機序,言語障害の特徴を中心に,早期手術患者の言語治療の実際をも含めて,著者の経験を述べてみたい。
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