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Ⅰ.まえがき
頭部外傷後におこるいわゆる外傷性顔面神経麻痺は,最近,交通事故,産業災害の漸増に伴い増加しつつある。しかし事故直後は,主として脳外科方面で取扱われるために,耳鼻科医がその早期診断,治療にあたることは稀であり,生命の危険が去り,患者が意識を回復した後で,始めて,顔面神経麻痺とともに難聴,耳鳴などを主訴として耳鼻科の診断が問われるケースが,大多数であろう。
外傷性顔面神経麻痺の治療法についての脳外科や整形外科的な考えは,麻痺は,漸次回復するものであり,保存的療法で十分だとする人々が多い。耳鼻科医に,その麻痺の,外科手術の適応の可否を問うてくるのは,麻痺が固定化してしまつた半年〜1年後のものが大多数であり,この様な時点では,減圧,端々縫合,移植などの手術手技を行なうチャンスを失している場合が多い。一般に,麻痺がまつたく回復しない場合は,1〜2年後に,舌下神経吻合術や,副神経吻合術などが,昔から脳外科方面では,盛んに行なわれている様である。しかし,この手術は,聴神経腫摘出時の,顔面神経の損傷に対して行なわれるべきもので,頭部外傷後の麻痺に対しては,最終手段であるべきである。しかもこの神経吻合術nerve anastomosisの遠隔成績をみるとあまり芳ばしくなく,やや満足すべき結果を得ているのは,全手術症例の20%前後といわれている。著者は,昭和42年より昭和46年3月まで頭部外傷後に発症した外傷性顔面神経麻痺患者38例について,外科的手術を行なつたが,このデーターを基として,外傷性顔面神経麻痺の手術適示,術式,保存療法と手術療法との関連性,遠隔成績などについて検討し,併せて外傷性顔面神経麻痺に対する治療指針について著者の見解をのべる。
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