特集 最近の顔面神経障害の基礎と臨床
顔面神経麻痺の形成外科的治療
倉田 喜一郎
1
1東京労災病院形成外科
pp.847-857
発行日 1971年10月20日
Published Date 1971/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207704
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I.はじめに
顔面神経麻痺の形成外科手術とくに皮膚などの軟部組織の形成手術についての原稿を依頼されたが,私自身は,この原稿を書くことにあまり乗り気ではなかつた。それは陳旧性となつてしまつた顔面神経麻痺を形成外科的に手術をしてもその成績はよくないからである。
顔面神経麻痺をおこした直後の適切な保存療法,離断した神経に対する高度の技術を駆使した神経縫合や神経移植術などは,その効果もすぐれ,また医師にとつても興味のある問題である。これに反し,顔面神経麻痺でも,適切な治療が行なわれなかつたどうにも回復の見込みのない陳旧例の形成外科的手術は麻痺した筋肉を再び動かすことを絶対に期待できず,単に故息的にその醜形をゴマカス(少しでもめだたなくする)手術にすぎないのが実状である。
しかも,形成外科に来院されるこれらの患者の大部分は最後の望みに最大の期待をもつているので,私はいつもこれらの患者を診療するときに悲しみをあじわつている。
私はここに顔面神経麻痺の治療は形成外科的手術にまで絶対にもちこまぬよう,形成外科手術がまだあるという考えをすてて,顔面神経麻痺の適切なる治療をしていただくことを強調したい。
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