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I.はじめに
萎縮性鼻炎の診療について,主としてわれわれの経験を記載する。診療を診断と治療という意味に解釈するならば,このことばの内容は実に豊富である。疾患の治療は,当然それが根本的なものであることがのぞましい。そしてそのためには,個々の患者について,その疾患の原因,発現の機構,現状を把握することが要求される。診断ということばの内容はここまでを含むものと考えるべきであろう。
臭鼻症を含めて萎縮性鼻炎という病名をつけることは容易である。萎縮の程度,鼻汁の量と質,副鼻腔炎合併の有無,副鼻腔発育の程度などを知ることも困難ではない。しかしこの疾患の原因や,いろいろな病型が発現する理由やメカニズムを明らかにすることはむづかしい場合が多い。ここにこの疾患の治療の困難さの最大の理由がある。この点,他の場合たとえばメマイの診断などとよい対照をなしている。
萎縮性鼻炎発生の原因あるいは要因として,実に多くのことが考えられている。間脳下垂体機能障害,副腎皮質機能低下,甲状腺機能低下,性腺機能低下,自律神経機能異常などしばしばとりあげられる問題ではあるが,これだけで解決のつくものでもない。内分泌機能,自律神経機能が粘膜の機能や病変と深い関係をもつことは疑いを容れないが,これらのどのような条件が単独で,あるいは他の要因と結びついて萎縮性鼻炎と因果関係をもつてくるかを具体的にすることははなはだむづかしい。ビタミンA, Dの欠乏,鉄欠乏性貧血などについても同様なことがいえる。さらに特殊な病原菌もないとすれば,一体この疾患の主役は何なのだろうか,あるいは脇役だけで成立つているのであろうか。いずれにしても,この疾患になりやすい素因と,この疾患をひきおこしやすい条件の両面からの考察が必要であり,われわれはこの疾患の地域局在性を明らかにするところから研究をはじめたものである。以下この問題と,治療に関係をもつ二,三の疫学的事項,さらに治療の問題についてのべたい。
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