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頸部交感神経は頭部,頸部,上肢などの血管運動に重要な関係を有する。したがつてこれらの器官の循環障害を基盤として成立する各種疾患に星状神経節遮断注射は効果的に作用することが多い。たとえば耳鼻咽喉科領域の疾患についてはBell麻痺,メニエール病,三叉神経痛の治療法としてこの注射法が用いられ有効であつたとの報告が多い。また頭部外傷,ムチ打ち損傷などによる各種愁訴の改善にこの方法が効果的であると主張する研究者は少なくない。しかしこの遮断注射の対象となる星状神経節が第7頸椎と第Ⅰ肋骨の間で頸部の深部に存することは,この方法を行なうにあたつて以下述べるような配慮を必要としている。すなわち,この部位には,A. subclavia,A. carotis,A. vertebralisなどの血管があることである。また,この部位は食道や迷走神経と近接している。そして以下のべる注射法では,第6頸椎横突起を目標としているので,Foramen intervertebraleの存在を無視する訳にはいかない。さらに肺尖部が高位にある症例では胸膜刺入を警戒すべきであろう。この交感神経は上述したように頭部諸器官,特に,脳の血流に一定の影響を有している。この事実はこの部位の病変の治療に大きな利点を提供しているとともに,不用心にこの注射法を行なうと脳病変の増悪をまねくことを考慮すべきであろう。したがつて本日の主題である"星状神経節遮断注射法の危険度"は二つに分けて考えるべきと思う。その一つは,手技そのものの誤りによつて惹起される重篤な副作用であり,他は手技そのものに誤りはなくても疾患に対する適示を誤つた故に起こる障害である。まず,第一の問題についてこれまでの文献に報告された実例および自験をのべてみたい。
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