- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.緒言
慢性扁桃炎の組織学的変化に関する研究は多数あるが,腺窩の変化の機序に就ての研究は少く未だ十分な検討はなされていない。
腺窩は胎生初期に於て第2鰓嚢の腹側部より発生し,胎生3カ月頃から其の部の上皮索が中胚葉組織内に進入し,更に分岐しながら深部に向つて増生する。次いで上皮索の中央部から漸次内腔を生じ腺窩を形成する。腺窩の周辺にはリンパ球が集り,リンパ組織を形成し口蓋扁桃の形態が整う。然し新産児に於ては腺窩の数が少く形も単純で,リンパ組織の発育もまだ十分でない。生後細菌が附着するに従つてリンパ組織は増生し,胚中心を形成し,腺窩も深くなつてゆく。大体10歳前後が一般に最もリンパ組織が増生し,腺窩も増数し,深くなり,形も複雑分枝状となる。此中,扁桃上部にある腺窩が最も大きい。20歳頃からはリンパ組織は徐々に萎縮し,老人になると高度に萎縮状となり,膠原線維成分が増加し,腺窩の形も単純となる。然し幼少年期には腺窩性扁桃炎をおこし易く,之を繰返す事によつて著しく組織構造の変化を来す。即ちリンパ組織(殊に胚中心),毛細血管,腺窩等の増生は極めて高度,複雑になる。殊に腺窩は多数分岐した樹枝状をなしてリンパ濾胞間に延びる。此の複雑な変形は単に増生したリンパ組織による周囲からの圧迫,腺窩内への突出のみでおこるものではなく或場合は腺窩炎の為に上皮の剥離,潰瘍形成,リンパ組織崩潰壊死,之につづく上皮の再生によつて深さを増し,或は腺窩の尖端,側部等から上皮が積極的にリンパ組織内に索状,樹枝状をなして進入増生し腺窩が延びてゆく。この腺窩の分岐延長はリンパ組織を崩潰せしめ,次いで上皮が再生し,この機転を繰返す事によつて益々複雑化する。従つて之等の機転を組織学的に調べ,慢性扁桃炎におこる変化の種々相の解明を試みたいと思う。尚之には血管変化がかなり重要な役割をなしていると思われるので殊に腺窩の変形と血管変化との相互関係に注日して研究を進めた。
Copyright © 1961, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.