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I.緒言
種々の染色法を用い組織や細胞を形態学的に研究する組織学は1930年頃には一応完成したかに見えたが,それなりに一つの行詰りをなしていた。そこでそれまで多年営々と発展を務めて来た生化学の分野を取り入れる事により細胞の形態学的変化以前の細胞内物質の動きを知り,それにより細胞の機能を追求する組織化学という新たなる分野として再編成された。
わが耳鼻咽喉科学領域殊に聴覚関係組織についても近年幾つかの組織化学的研究業績の発表が認められ,聴覚生理・病理の究明が行なわれつつある。しかし実験操作は中枢部の研究では比較的容易であるのに,内耳組織は強固な側頭骨内に埋没して存在し,従来の組織学ではこれを脱灰して切片を作成していた事は周知の事であるが,組織化学の研究対象となる細胞内物質は脱灰に用いる酸に多かれ少なかれ影響を受けるため脱灰は禁忌とされている。それゆえ内耳の非脱灰標本を作成するためには,この強固な周囲の骨組織を機械的に除去するより万法はなく,そこに内耳の組織化学研究者の並々ならぬ苦労が存在していた。
In order to obviate mechanical injuries and other deformation that might be forced upon a specimen intended for microscopic exami-nation during the process of decalcification of the cochlea, the inner ear is treated with a fixating irragation prior to the process in which the temporal bone is fixed in paraffin. In this way the vascular and cellular stru-ctures of the organ of corti would be fairly well preserved. Enough time is alloted so that the paraffin might penetrate the speci-men thoroughly and at which time the spe-cimen is subjected to a low temperature to cause hardening of the paraffin.
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