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1.緒言
慢性中耳炎の治療として炎症の消退と同時に聴力を恢復せしめる手術方法を聴力増進中耳根治手術として,著者の一人後藤が1952年に提唱してから4年を経過し,其の間手術法に関する動物実験,音伝導系に関する動物及び標型実験を根拠として,手術方法の改善改良をして来た。しかしこの丁術法は耳硬化症に於ける内耳開窓術と異つて慢性中耳炎の広範にわたつて,その適応があり,伝音系障碍に於て,未だ明らかにされていない伝音機構の種々の問題点をふくんでいる。従つて手術法も又種々の改変が行われて中耳形成術という名称の下に一連の手術法となって来たことは当然である。
手術適応,或いは予測し得る手術法の決定は,臨床的には,乳様部は勿論,中耳の病変に対する観察が重要であり,そのため鼓膜所見,中耳腔の肉眼的所見,X線所見が必要であり,聴力の恢復を予測する為には聴力検査の大切なことは当然である。又手術時に於て拡大明視下に中耳腔の病変程度の観察,即ち耳小骨連鎖の状態及び可動性,鐙骨の状態及び可動性,鼓膜残存すれば鼓膜穿孔の位置,大きさ,並びに中耳腔に於ける炎症の進展程度を知り,これらによつて手術法が異つてくるので,これが術後の聴力恢復推移に重要な影響を及ぼすことになる。本手術が慢性中耳炎を完全に治癒せしめると同時に,聴力の改善を目的とする以上,術前の各種の検査が適応を判定するに必要であると同様に,聴力の推移を観察することは手術後の治癒経過を追う唯一の方法として必要欠くべからざるものと云わねばならない。いづれにしても,本手術は中耳炎に於ける中耳腔の炎症の完全除去をする本当の意味の中耳根治手術であり且つ中耳腔及び鼓膜の作成にその主眼がある。而して中耳腔の操作に当つて,外耳道切開によつて術が進められるのであるが,鼓膜の残存,中耳腔の病変程度によつて,外耳道の処理も種々の方法があり,これに関聯して中耳腔の手術操作も,炎症を可及的除去すると同時に,耳外骨の処理も又異つてくる。即ち,鼓膜の一部,槌骨杷柄及び鐙骨を残す場合,砧骨及び鐙骨を残す場合,槌骨,鼓膜輪及び鐙骨を残す場合,三耳小骨を残す場合,三耳小骨残存のままで中耳腔の炎症を除去し得たならば橋部を残す場合等がある。また槌骨,砧骨を除去しても鐙骨を残し得る場合があり,鐙骨が存在しないこともある。これらの夫々について,人工鼓膜ともいうべき,鼓膜部に一次的に遊離植皮によつて鼓膜を形成し,これによつて中耳腔を形成するのであるから,その治癒経過の状態も夫々可成り複雑な様相を示すわけである。
Goto and Itakura present data on the state of hearing of ears that had been operated upon by tympano-plasty with changes that may take place in the ensuing months of the postoperative period. Six different types of changes are thusly recognized.
(1) In the first group, a marked hearing improvement is noted in the initial 2 or 3 months of the postoperative period. The hearing then, becoms retarded at 5th or 6th month only to be improved again thereafter towards a permanent recovery.
(2) In the second group, the improvement and the ensuing retardation ocurring in co-rresponding postoperative periods are less pronounced than those of the first but, hea-ring improvement is finally established in the end.
(3) The third group attain hearing impro-vements without the period of retardation.
(4) In the 4th group, improvements are established immediately after the operation.
(5) In the 5th group no improvement is seen.
(6) In the 6th group, hearing improvements may be established as late as six months to one year after the operation.
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