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所謂無響室内耳鳴に就いて
水落 知
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1北海道大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.489-491
発行日 1955年9月20日
Published Date 1955/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201388
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現今行われるオーヂオメトリーに於ては,気導聴力損失10db以内は正常と見做し,10〜20dbの損失を軽度難聴としているが,此の程度の損失は聴力障害として自覚されない場合も屡々である。しかし耳鳴の分析或は其の陰蔽効果研究の立場からすれば,此の10dbなる数字はかなり重要な意義をもつと言わねばならない。何故ならば先に報告せる,耳鳴と聴力,なる小論に述べた如く,一種の騷音としての耳鳴の示す陰蔽効果は12db以内で,大多数は5〜8dbであり,気導聴力損失0〜20dbの範囲,即ち聴力障害として自覚されない数値内で,耳鳴の干渉を充分考慮に入れる必要があるからである。とれが10db以内となると更に大きな意義を与えねばならぬと考え,敢て所謂正常聴力なる言葉を用いた。1941年E. P. Fowlerは耳鳴を訴える場合程度の差こそあれ,常に聴力障害が存在する,と報告したが,1944年此の見解を訂正し,耳疾は勿論,他に疾患のない正常聴力者に於ける耳鳴の発現について記載している。1953年Morris Bergman等は生理的耳鳴ともいうべきものを提唱した。
更に1955年長大,原口は健康成人に於ける,無響室内耳鳴について,其の発現率,音質等について報告した。ここに私は今日までの耳鳴に関する資料により,かかる或る種の耳鳴を生理的とするか,病的と見做すかについていささか私見を記し度いと思う。
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