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緒論
聽器の外的障碍に対する態度に関しては個体差の甚しいことを兼ねて神経難聽の臨床的研究に際して痛感していた。この事実は所謂音響性外傷(acoustic trauma)に於ても当て篏ることであり,実際同一強大音響源に同程度曝露されて居り乍ら或る者は精密な検査の下にも,一時的の軽微の損失を証し得るに過ぎないのに比し他の者では著しい聽覚障碍を来し高度の恒久性損失を残すという如きで,騷音感受性或は受傷性(noise susceptibility)の問題は実に産業衛生上に於ては勿論,其他普く強大音響,銃砲爆音に直接曝される立場の人達には正に重大な問題であらねばならぬ。勿論騒音防止の当面の対策は忽せに出来ないが,先ず雇用,就業に先行して不適当な者を除外することが出来れば非常に有用であり貢献し得るものであろう。この点に関して聽覚疲労現象についての各種の実験が近時漸く盛んになって来たのである。例えばPeyser(1952)の報告するところでは単なる可聽閾値測定では騷音裡作業者の適性を決定出来ないので負荷試験を行い,気導により1024Hzの可聽閾を確定して後1024Hz100dbの音圧で3分間負荷する。15秒休止後再び気導閾値を測る。若し此の場合閾値変動が10dbか或は之を越えれば明らかに過敏性であり,反対に音響性外傷に対して抵抗力ありと見做される個体は0〜5dbを呈し,5〜10dbの変動を示すものは不確実な者であると判定するのである。兎に角この種の実験的には色々な面で困難な問題に逢着するのは止むを得ない。
既に就業している人達に詳しい検査をしても以前の状態を類推するのはむずかしい。新規の就業者に対し充分なる準備の上で一貫した組織的素地の上に多年の研究を要することは言を俟たない。
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