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第1章緒言
組織療法はソ連の眼科医フィラトフ教授の創案した一種の臓器療法である。最初彼は角膜混濁の治療法として屍体角膜の移植を行つているうちにその材料が必ずしす新鮮であることを必要としないのみか,ねしろ死亡後数時間以内のものを一定期間冷所に保存したものの方が治療成績の勝れていることを知つた。又移植都位も病巣部に重ねるよりも周辺部更に遠隔部に移植する方が楽でありその効果に変りないことが判つた。材料も亦角膜に限らず他の組織でも同じ効果があり,彼の門下生であるスコロデインスカイヤ女史は芦薈のような植物でも然も其の抽出液の注射だけで角膜混濁がうすらぎ,網膜や視神経の難治疾患まで治癒することを報告した。フイラトフは難治の狼瘡が冷蔵皮膚埋没法にて治癒して以来,本療法を各種の慢性疾患に拡張し,今日多種多樣の疾患に応用され,一種の非特異性臓器療法として其の効果が唱道されている。然し本療法は共産主義国家に於ける一種の流行的の観があり,其の効果も報告者により大差があり,尚多くの疑問と批判の余地を持つものである。
フイラトフは生物が悪い生活条件の下に置かれると―其の極端な場合は母体から離断される時―其の生物組織の中に生理作用を亢進させる物質が産生され,このもの或はこの物質を体内に移入することによつて生物の新陳代謝を高め,免疫作用を促進し,創傷や炎症の治癒機転をはやめ,瘢痕組織を吸收軟化させる作用があるものとした。彼はこれを生物原性刺戟素(生原素)(biogenous stimulant)と名づけたが,この物質の正体は今日尚明がにされていない。蛋白質や酵素やホルモンでなく,120℃1時間の煮沸にも耐え,蒸溜液中にも多少移行するもので,恐らく組織分解過程中に於ける有機酸の一種であろうとなし,これに属する有機酸属4種類を挙げている。
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