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聽器癌腫の1例
高橋 貞意
1
,
天岸 太郞
1
1東京鐵道病院耳鼻咽喉科
pp.278-281
発行日 1953年6月20日
Published Date 1953/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200907
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聽器に發現する癌腫は比較的稀なものとされ,九州大學耳鼻科教室に於ける25年間の入院患者に就ての統計によると,患者13970名中,耳疾患7155名,聽器腫瘍259名,其の内,聽器癌は10名で耳疾患の約0.14%である。京都大學耳鼻科教室に於ける1903年より1951年迄の49年間の入院及び外來患者の統計によれば,1560例の惡性腫瘍の症例中,聽器惡性腫瘍は13例である。
Bezoldによると更に少く2萬人の耳疾患中,癌腫は4例で0.02%である。聽器癌は時に外耳道炎,耳茸,乳樣突起炎等との鑑別が困難で,早期診斷の時期を失する事があると指摘されているが,吾々は最近,眞珠腫を伴う慢性化膿性中耳炎を約10年間經過して患者に對し,單なる乳樣突起炎を惹起したものと思い,中耳根治手術を施行したが,其の手術所見及び手術後の經過等より惡性腫瘍を疑い,組織學的検査の結果,初診より約6カ月を經て初めて扁平上皮癌と診斷し得た症例を經驗し,日常遭遇する中耳根治手術に際しては常に本症を考慮に入れて,疑わしき時は組織學的検査を怠つてはならぬ事を痛感したので茲に症例の大要を報告する次第である。
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