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クロールプロマジン長期投与例において発生した今迄記載のない眼科的および皮膚科的副作用につき述べた。同様の療法をうけた精神病患者は数千人に上るが,本症状を発現した例は70例であつた。症例はすべて女性であり,25歳から62歳(平均43歳)まで,すべてコーカサス人種に属した。全例共色素沈着の始まる前少なくとも3年間以上は本剤の大量(1日量500から1500mg)を服用していた症例である。70例中21例において特有の色素沈着が最も顕著に認められ,更にその中の12例には特有な角膜および水晶体混濁が認められた。皮膚症状としては,顔面,頸部上胸部,手背等の日光露出部における深紫色調を有する灰色がかつた色素沈着が特有である。この色素沈着は本剤の服用を中止しても少なくとも6ヵ月以上は褪色することがない。他に水疱形成その他の発疹は発生しない。組織学的に検したところ特徴的なのは真皮上層,特に血管周囲における顆粒状色素の蓄積である。これらの色素はH-E染色,PAS染色によれば黄金色褐色の微細顆粒であり,Gomari鉄染色法は陰性であるが,Fontana法によれば強陽性で暗黒色に染まり,すなわちメラニンに特徴的な染色態度を有していた。炎症反応は見出しえなかつた。色素沈着を有する症例の,臨牀的に色素沈着の認められない部位にも,程度の差こそあれ同様変化を認めえた。一方眼症状としては,鞏膜,角膜および水晶体における特有な不明瞭な褐色調の混濁であつて,水晶体混濁の場合褐色の中心星芒状型白内障を発現する。細隙燈検査によると角膜混濁は角膜の後半分に位置する黄白色穎粒の様であり、又水晶体混濁は,中心部においてより顕著な黄白点より構成され,放射状に走る側枝を有していた。
以上の症例における発疹は,恐らく本剤を長期間大量に服用した結果発生したものと思われる。その発生機序に関しては,発疹の分布形態からみると光線過敏性が要因をなすものと思われるが,他方全症例共女性であること,その8割迄は無月経であつたこと,などを考えると,発症には内分泌系の要因も関与するものと思われる。本剤の服用例がふえるにつれて,このような特異な副作用を示す症例も増加するものと思われる。
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