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結合織の肥腓細胞は,血中好塩基球の如く,ヒスタミンおよびヘパリンを比較的高濃度に含有する。またセロトニンをも有するといわれるが,これには異論がある。健康時におけるこの細胞の機能はよくわかつていないが,系統的増殖を起した場合には,注目すべき臨床症状を生ずる。これはすなわち肥胖細胞症(m—astocytosis)といわれるもので,最もよく知られている症状は色素性華麻疹である。肥胖細胞症は細網症と総称されている他の疾患と多分に共通の特徴を有し,犬においては悪性の経過を辿る。人間においては本症は局所的のことあり,また汎発することもあり,皮膚,骨,肝,脾,胃腸管を侵す。これに合併した好塩基球性白血病の記載もあり,骨髄障害も報告された。皮膚においては特異の色素斑を生じ,僅微の外的刺激によつてヒスミン遊離に起因する3重反応を示す。骨においては崩壊性あるいは硬化性である。肥胖細胞症の症例のうちには,ヒスタミンの全身性遊離を思わせる種々の現象を示したものが報告されている。すなわちかかる患者の1/3には顔面潮紅の発作と心搏急速を生じ,また頭痛を起したもの,嘔吐,下痢を生じたものもある。かかる症状はカルチノイド症候群のそれに類似しているが,肥胖細胞症においては皮膚の発疹は特徴的診断価値を有し,しかも殆んどすべての患者に発生する。ヒスタミンとその代謝産物イミダゾール酢酸,特に1,4-メチルイミダゾール酢酸が尿中に検出されるが,カルチノイドの排泄物5-ヒドロキシインドール酢酸は検出されない。Demisは14Cでラベルしたヒスタミンとヒスチジンを肥絆細胞症患者に投与して,過剰のヒスタミンを生ずる機序を知ろうとした。その結果,ヒスタミン崩壊の阻止は証されず,ヒスタミンの排泄増加は生産過剰のためであるとした。本症には満足すべき療法なく,抗ヒスタミン剤がヒスタ,ミン遊離の結果を減少する。(Leading Articles : Mastocyto-sis Syndrome, Brit. Med. J., 1 ; 6, 1964)
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