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I.緒 言
戦前の薬疹の原因薬剤は主にアンチピリンが占めていたことは泥谷1),山田他2),青島3)の報告により知られている。戦後は関藤4)の報告によると薬疹の頻度は増加し,特に固定薬疹においてその傾向が大で,固定薬疹の原因薬剤もバルビツール酸誘導体(バ誘体と略す)またはそれを含有する鎮痛剤,睡眠剤,綜合感冒剤が首位を占める。Menninger5)は1928年既に1913年から使用され始まったフェノバルビタールによる薬疹の増加を指摘し,Böttiger et al6)はバ誘体による中毒が1944年と比べて1957年の頻度は約4倍に達し,原因となる主な薬剤も当初はフェノバノレビタールであったものが,1954〜1958年までの中毒患者311例中アモバルビタールが39%と首位を占めるようになったと報告している。また同年間のHeijer et al7)の薬疹の観察によると104例の半数はペニシリンープロカイン,サリチル酸製剤,バ誘体が主な原因薬剤で,特にペニシリンープロカインが後者2剤に代り首位を占めるようになったことを認めている。薬疹における原因薬剤もその国の国状を反映し,薬剤の消費量に比例する。本邦では戦後マスプロの時代を迎え,特に最近はラジオ,テレビ,印刷物の商業的宣伝により多数の薬剤が手軽に家庭内で乱用され,甚しい場合は睡眠剤遊びと称してアルコールとともに睡眠剤が飲用に供される。製薬会社を調べるとバ誘体の多くが国民により愛用されつつあり,これがバ誘体によって生ずる薬疹の増加の一因になると考えられる。例えばバ誘体のうちでもバルビタールは長時間作用する睡眠剤で,体内に入っても分解されることが少く長時間体内に蓄積されるのでバルビタールの乱用は当然薬疹の増加に拍車をかけることになる。このような事実からバ誘体による薬疹が如何なる薬剤に多価過敏性を有するかを知ることは臨床上大切なことで,再発を防止するだけでなく治療の一助ともなる。併し多価過敏性を正確に調べるためには種々の薬剤の内服試験を行わなければならないので,非固定性の薬疹では多分に危険を伴い患者に相当の苦痛を強いることになる。著者は特にバ誘体による固定薬疹を選び,内服試験を行ない多価過敏性特に類籏過敏性の研究を行なつたが,この結果はバ誘体による薬疹の全体に適用できると考えている。更にあわせて固定薬疹の原因薬剤の統計的観察を行なつた。
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