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本書を目にした医療者の中には,「循環器領域で今さら診断?」と軽く一瞥した方も少なくないように思われる.そう,古来より循環器の領域では,「診断」よりも「治療」がメインストリームと思われてきた,というか思われがちであった.現実問題,Fantastic Fourしかり,最先端デバイス治療しかり.これら治療の武器により,患者の状態が「良くなる」ことを目のあたりにできるわけであり,それは興味深いし取り組みがいがあるのは当然である.それに比べると「診断」の歴史は古く,しかもそのフォーマットに大きな変化はあまりないようにも思える.
しかし,はたして私たちは,循環器領域における診断の意味を真剣に考えたことがあるだろうか.そもそも「診断」とはどういった行為なのだろう.私なりの言葉で言えば,“患者の発する「言葉」(=問診)および患者に起きている「現象」(=身体所見)という一次情報を,数値や画像情報と言う二次情報に変換し(あるいは変換せずに),最終的に特定の物質的状態を本質とする疾患概念へと還元(原因づけ)すること”である.恐ろしく抽象的な言い方になってしまったが,例えば「心房細動」を例に取ろう.「胸がどきどきする」「胸に違和感がある」といった患者の言葉.そして脈が不整,脈拍数が多いといった現象.これら一次情報を,「心電図」という二次情報を通じて,肺静脈の自動興奮と心房内での電気的興奮のリエントリー回路,という物質的状態へと還元すること,すなわち「心房細動」の疾患概念を確定することである.このように書くと直線的で単純な図式が思い浮かぶが,そうではない.まず患者の言葉や身体所見には無数のバリエーションがある.患者自身も,自分の身体に起きている現象をどう言葉にしてよいかわからない場合がある.また,「胸が痛い」という言葉ひとつをとっても,様々な疾患概念が想起される.さらに一次情報から二次情報への変換過程やそこから疾患概念への導出の際には,様々な診断エラーが忍び込む.こう考えると,治療のほうが,診断が決まればエビデンスやガイドラインを用いながらの道筋はある意味立てやすく,より単純な側面があると言えるかもしれない.
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