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第59回日本呼吸器学会学術講演会の初日である2019年4月12日,世界で初めての喀痰のガイドラインである「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」が日本呼吸器学会から遂に発刊となった.このガイドラインの前版である「咳嗽に関するガイドライン第2版」の改訂に際し,咳嗽と密接な関係にある喀痰を一緒に取り扱い,「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン」として作成されたものである.咳嗽とともに喀痰のセクションを作ることは,気道分泌に関する研究の第一人者であり,本ガイドライン前委員長である玉置淳先生(東京女子医科大学名誉教授)のかねてからの願いであったが,改訂に予想以上の時間を要したため,玉置先生の委員長在任期間に発刊が叶わなかったことを大変申し訳なく思っている.今回,呼吸器学会総会に発刊が間に合ったため,学会に参加した先生方には会場の書店で早速手に取ってご覧いただき,たくさんの先生方にご購入いただいたことで,学会期間中の売上げ第1位の書籍となったようである.世界で初めての喀痰のガイドラインに大きな関心を持っていただけたことが伺える.
呼吸器疾患の病態を咳嗽と喀痰の両面から理解することは,治療戦略を講じるうえで重要である.喀痰症状は,同時に咳嗽を誘発することで患者のQOLを低下させ,喀出が困難になると換気障害が生じ,呼吸不全や窒息死の原因となる.特に,気管支喘息においては,急性増悪の際に,粘液の増加による換気障害や粘液栓形成による局所的な無気肺が生じ,さらに広範な粘液栓は喘息死の原因となる.また,気管支喘息やCOPDの患者では,持続性の喀痰症状は重症のフェノタイプと関連しており,増悪をきたしやすく予後も不良であることが知られている.このように,喀痰は,呼吸器診療において極めて重要な治療ターゲットとなるといえる.しかしながら,気道過分泌の病態や粘液線毛クリアランスの機能障害については,臨床医に十分に認識されていない.
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