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咳嗽は呼吸器疾患の日常診療においてきわめて高頻度に遭遇する症状の1つであり,とりわけ長引く咳や頑固な咳で医療機関を受診する患者は年々増加の一途を辿っている.畢竟,外来診療において慢性咳嗽,難治性咳嗽の治療に苦慮することも多く,以前われわれが東京都のプライマリケア医2,619名を対象として行った咳に関するアンケート調査では,78%の医師が長引く咳の治療に難渋した経験があると回答している1).実際,わが国では外来患者の主訴として最も多いのが「咳」であり,同様の傾向は他の先進諸国でもみられ医療経済の面からも大きな問題となっている.このような背景のもと,2000年代に入ると欧米の主要な呼吸器関連学会としてERS(European Respiratory Society)とACCP(American College of Chest Physicians)によって咳嗽のガイドラインが提唱され2〜7),特に後者のCHEST Guideline and Expert Panel Reportは毎年のように改訂・補遺を重ねている.また,それ以外にも英国,オーストラリア,ドイツ,韓国などから発刊が相次いだ8〜11).日本呼吸器学会では,2005年の「咳嗽に関するガイドライン」初版に引き続いて,2012年に第2版を発刊し,Mindsによる認証も受け価値の高いガイドラインとして認知されている12).いわゆる“診療ガイドライン”というものはこれまで世界中で数多くの疾病について刊行され診断・治療の標準化に多大な貢献をしているが,その多くはある特定の「疾患名」を対象としたものとなっている.例えば「糖尿病診療ガイドライン」,「消化性潰瘍診療ガイドライン」,「肺癌診療ガイドライン」然りであって,これらのガイドラインを真に有効活用するためには,使用する時点で既に疾病の診断が確定していることが前提となっている.一方,咳嗽のガイドラインは「高血圧治療ガイドライン」や「慢性頭痛の診療ガイドライン」と同様,ガイドライン名に「症候」を冠していることから,症候→検査→診断→治療という通常の診療の流れに則した,よりプラクティカルな構成といえる.
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