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1986年夏,カナダ・マッギル大学モントリオール神経研究所のルーカス山本教授のもとに留学したが,その数カ月前に先輩から1冊の本を借りた.その本のタイトルが“NO MAN ALONE”で,モントリオール神経学研究所の初代所長ワイルダー・ペンフィールド先生(1891-1976年)の自叙伝であった.有名な本なので読まれた方も多いと思うが,ペンフィールド先生の生い立ちから学生時代,卒業後神経病理学から脳神経外科へと進んだ修業時代,米国からモントリオールへの移動,神経生理学やてんかんへの取り組み,各分野の研究スタッフと資金を集め神経研究所を設立するまでの苦労と喜びなどがいきいきと描かれている.留学先の歴史を知りたいこともあって,毎晩枕もとから取り上げては眠りに落ちるまで読んだ.簡明な英語とはいえ,厚い本を読むことに慣れていなかったので渡航までに読破することができず,モントリオールまで携行して2-3カ月後に読み終えた.時差ボケのため眠れぬ夜を過ごすのには丁度良かった.本の中でペンフィールド先生が歩んだモントリオール市内のシャーブルック・ストリートやパイン・アヴェニューを現実に歩き,本に登場したセオドア・ラスムッセン先生やウィリアム・ファインデル先生と話せることに何ともいえぬ感動を覚えた.
ペンフィールド先生は神経疾患に悩む患者を脳神経外科と神経内科共同で治療する病院と神経解剖・病理学や神経生理・生化学の基礎研究部門を同一建物内に集め,診療・研究の密接な連携をもつ神経学研究所の発想を実現し,キャップテンとしてこれらの各部門のチームワークをとり,世界に誇る神経学研究所に育てられた.その基盤にある精神がNo Man Atoneである.一人では事をなすことはできない.私が留学していた頃のモントリオール神経学研究所にもこの精神は受け継がれていた.毎日のように行われる症例検討会や勉強会に基礎・臨床の様々の分野の人達が気軽に顔を出しており,また意見を述べていた.患者から学び,臨床から基礎的研究を発想する,逆に基礎研究の成果を臨床にfeedbackするという営みがごく自然に行われていた.
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