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A.R. Luria: Higher Cortical Functions in Man(1966), etc.
上田 敏
1
1東大病院リハビリテーション部
pp.1129
発行日 1973年11月10日
Published Date 1973/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552103055
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ソ連の有数な心理学者として,また特に失語・失行・失認などの高次脳機能障害の優れた研究者として有名なルリア(Aleksandr Romanovich Luria)の代表的な著書を中心に,現在わが国で得られる彼の著書・論文の主だったものについて紹介してみたい.
ルリアはモスクワ大学の心理学の教授であり,同時にブルデンコ記念神経外科研究所に研究室をおいて,脳障害の患者の臨床的・心理学的研究に従事している.彼はヴィゴツキー(L.S.Vygotsky,ソビエト心理学の建設者で,1920年代に短いが多産な生涯を終った天才的な学者,スターリン時代には無視され忘れられていたが,最近国際的に再び高く評価されるようになった)の高弟であり,種々の面でヴィゴツキーの思想を発展させている.それはたとえば,ヴィゴツキーがピアジェを批判しつつ「人間の子供は人間社会のまっただ中に生まれ,親をはじめとする大人からのたえざる働きかけのただ中で発達する.そのような社会的環境(とその「教育」的活動)を忘れて,あたかも子供の知的発達が内発的に“自然に”起るように考えるべきではない」と述べたのをうけついだ,「言語の・人間の行動に及ぼす・統制的役割」のユニークな研究にもあらわれている.子供の(一見きわめて簡単な「非言語的」とみえる)行動がその起源において,大人からの指示・命令(統制)という言語刺激によっておこったものであり,それが後に内言語化された結果,一見「非言語的」にみえるようになったのにすぎないことを,彼は多数の臨床的観察や実験にもとづいて示している2,5).
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