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I.はじめに
近年,分子生物学の目覚ましい発展により細胞の遺伝子操作が可能となり,外来遺伝子を標的細胞に導入して疾病を治療する遺伝子治療が,基礎的研究にとどまらず臨床的にも積極的に応用されている.現在臨床では,癌に対する遺伝子治療の戦略として,1)抗腫瘍免疫を増強させる方法(例:サイトカイン遺伝子の腫瘍細胞あるいはTリンパ球への導入),2)薬剤感受性遺伝子(suicidegene,chemosensitivity gene)の腫瘍細胞への導入,3)癌抑制遺伝子あるいはアンチセンス癌遺伝子の導入,4)薬剤耐性遺伝子の骨髄細胞への導入,等が行われており1,68),既に26のプロトコールが米国では承認されている64).
このうち薬剤感受性遺伝子の導入による治療とは,非毒性薬剤(prodrug)を毒性のある活性薬剤に変換できる酵素の遺伝子を腫瘍細胞に導入し,正常細胞にはほとんど影響を与えずに腫瘍細胞のみを選択的に殺傷しようというシステムであり,prodrug-sensitivity gene,chemo—sensitivity gene,drug-susceptibility gene59),suicidegene50,51),drug activating gene68),virus-directedenzyme/prodrug therapy(VDEPT)30),等と呼ばれている.この薬剤感受性遺伝子治療の中で,Ganciclovir/Herpes simplex virus type 1-thymidine kinase(GCV/HSV-TK)遺伝子治療は,1986年Mooltenらによって最初に癌に対する治療応用の可能性が報告されて以来47-49),実験脳腫瘍に対する有効性も多く示され5,6,20,23,59,70,71),1992年にOldfieldらのNational Institute ofHealth(NIH)グループによって,悪性脳腫瘍に対する最初の遺伝子治療として臨床治験が開始された55).この遺伝子治療には,遺伝子が導入された腫瘍細胞のみならず,周囲の非導入腫瘍細胞に対しても抗腫瘍効果がおよぶbystander effectの存在が認められており24,49,59),現在の遺伝子導入方法でも十分効果が期待できる遺伝子治療として注目されている.
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