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ここ数年,国際学会で海外に出かける機会を利用して各地の医学史博物館を訪ねるのを楽しみにしている.1989年ロンドンに寄って“The Wellcome Institute of the History of Medicine”を訪ねた.有名な薬品会社の創設者で富豪のHenry Wellcome氏のコレクションを死後まとめたもので,医学史の博物館としては量質ともに世界最大と言われる.筆者が訪れた時,丁度大英自然史博物館の一部に吸収,移転したところであった.博物館の2フロアを占める豊富な資料がよく整理,展示されていた.一つのフロアは専門家向け,もう一つは模型や人形を用いた一般・啓蒙的のものであり,chloroform麻酔や石炭酸による無菌処置などの19世紀の手術の様子を伺う展示にも興味をひかれた.この時Queen Squareの神経研究所のG.T.Thomas教授に会う予定もあり,関連病院の一つであるMaida Vale Hospitalでpontine gliomaのstereotactic biopsyをやっているから見に来ないかということで見学に行った.ロンドン市内西北部にある中規模の病院を訪ね,その古色蒼然たるたたずまいにまず驚嘆したが,188記年Godleeが最初にgliomaを手術したのはこの病院だと聞いて急に懐かしさに似た感概を覚えたものであった.19世紀後半のQueen SquareにはJacksonやFerrierという大物が活躍していたことを背景としてgliomaの診断,外科的治療が進展し,同じ研究所のHorsleyがこれを推進し次の世紀のCushingへとつないで行く歴史を振り返っての感概である.Maida Vale Hospitalの内部ではコンピューターが活躍しているが,外観も改築が始まっていた.21世紀への準備であろうか.
1992年パリに寄った.パリ大学Sainte Anne病院神経病理のDaumat-Duport教授に予め医学史博物館はじめ医学史ゆかりの施設の見学を頼んでおいたところ,教室の若いドクターが車で案内してくれた.パリ大学周辺であまりにも多くの史跡を見せられて混乱してしまい,正直のところ未だにどこを案内されたかよく同定できないくらいで,まさしく医学史の宝庫である! Musee de l'Histoire de la Medecineがすばらしかったことは記憶に鮮明で,ここでは資料や絵葉書の入手も可能である.医学部の正門に多くの医学者の彫像が並ぶ中で中央にあるのは外科の父Ambrois Pareである.翌日Sainte Anne病院脳神経外科のChodkiewitz教授にご馳走になった時,脳神経外科の歴史をたどる時やはりPareに遡るのではないかとヘンリーⅡ世の事例(1559年フランス国王Henri Ⅱ世が決闘で右眼窩部から脳内に槍が穿通する外傷を負い感染で死亡した事件,Pareと解剖学の祖Vesaliusが呼ばれて治療した.JNS77:964-969,1992)を話題にした.ところが彼は,解剖学的検索のため罪人数人の首を刎ねたりするのは感心しないと言ってあまりPareを賞揚する気配ではなかったのは意外であった.日本人の感覚との違いであろうか.もっともJNSの記載では首を刎ねたのは女王カトリーヌの命令によるとされているが….Pareの生誕の地Ravalの町の記念博物館には彼が用いていたtrephineの手術器具が残っているそうであるが未だ訪ねる機会がない.
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