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I.はじめに
現在,米国をはじめとする各国で開発されているがんに対する遺伝子治療のアプローチは,まずその生物学的側面から3つに分類できると考えられる.まずは免疫遺伝子療法として,腫瘍細胞やリンパ球にIFN, TNFをはじめとするサイトカインや同種抗原のHLA-B7の遺伝子を導入することにより,宿主の免疫能を強化あるいは惹起する方法である.二番目は,腫瘍細胞に直接がん抑制性あるいは殺細胞性の遺伝子を導入する方法で,ρ53遺伝子,K-rasやinsulin-like growth factor Iに対するアンチセンス遺伝子または,単純ヘルペスチミジンキナーゼ(herpes-simplex-thymidine kinase=HS-tk)遺伝子を導入するプロトコールが認可されている.三番目には,造血細胞に多剤耐性遺伝子を組み込んで骨髄抑制を軽減し,大量の化学療法を可能にしようというものである.
また,いかにして遺伝子を安全に効率よく細胞に導入し安定して発現させるかは,技術的に根本的な問題であるが,遺伝子を運ぶベクターに何を選ぶかは,大きくウイルスに頼る方法と,それ以外の方法に分けられる(Table1).一般にウイルスを用いた方法は,本来ウイルスが持っている遺伝子導入活性を利用するので,導入,発現効率は非常によいが,標的細胞の種類,導入できる遺伝子の大きさや発現の安定性などは,ウイルス自体の性質に依存せざるを得ない.また,ウイルス自体の免疫性が反復投与を困難にする場合もあり,ベクターの品質管理の面でも野性型の混入を完全に防げるかどうかなど問題はある.ウイルスを川いた方法についての詳細は他の執筆者にゆずるとして,一方でウイルスを用いない方法には,脂質とDNAの複合体によるもの(リポソーム法やリポフェクチン法),カルシウム塩とDNAの複合体によるもの(リン酸カルシウム法),電気穿孔法,マイクロインジェクション法や,最近では蛋白質とDNAの複合体を用い,その特異的受容体を介して遺伝子導入する方法1)や,直接DNAを注射する方法16)も発表されている.これらの方法は,ウイルスを用いた方法に比較すると一般に導入効率は低く,またex vivo法ではともかく,リン酸カルシウム法,電気穿孔法,マイクロインジェクション法はin vivo法へ発展させるのはまず不,可能である.しかし,これらウイルスに頼らない方法の場合はDNAを純粋な化学物質として扱えるので,大量生産や,品質管理に都合がよいと思われる,こういった様々なベクターの持つ長所と短所を考慮した上で,理想的なベクター,とくに脳腫瘍の局所治療にとって理想的なベクターの条件について考えてみると,①正常脳組織に対する毒性が低く,標的である腫瘍細胞にのみ効率良く導入,発現される,またはそのための加工が行える,②大量生産や品質管理が行いやすい,という点が最も重要である.
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