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I.はじめに
脳腫瘍の約1/3を占めるグリオーマは,脳内にて浸潤性に増殖するため,腫瘍辺縁部が不規則不鮮明となり,時には隣接した脳葉にも連続的に伸展していることが多い.そして,麻痺,言語障害および知覚障害等の臨床症状を呈したグリオーマ患者に対し,術後の神経症状を悪化させないためには,最初から腫瘍の全摘出をめざす手術ができないことが多い.また,制癌剤の多くは,神経毒性のため投与方法や投与量に制限があり,脳腫瘍患者の補助療法として必ずしも確立していない.このような現状より,悪性グリオーマ患者の平均寿命は,手術,放射線および化学療法などの集学的治療にもかかわらず1年から1年半である.
脳実質は,リンパ系組織がなくて血液脳関門(BBB)が存在するという特殊構造を有しているので1),血管内の各免疫担当細胞は容易に脳内に浸潤しえないことより,古くから免疫学的特殊部位(immunologically privi—leged site)と考えられてきた.しかし,脳実質内より発生した悪性グリオーマの新生血管には血液脳関門が存在しないことが報告されており2)),また,グリオーマ細胞がリンホカインに反応して増殖したり,時には幾つかのリンホカインを分泌することから,特殊な形であるにせよ脳実質内で免疫反応が生じる可能性が示唆されてきた.それゆえ脳腫瘍の治療には,開頭腫瘍摘出後,放射線療法や化学療法に加えて,前述した脳の特殊性を考慮した免疫療法や遺伝子療法の確立が急務であると思われる.1992年12月には,米国のBlaese博士らによって,ラットグリオーマに対する遺伝子治療成績を基にして,悪性グリオーマ患者に対し臨床治療(clinical experi-ments)が実施され,有効症例が報告され始めている.
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