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Ⅰ.はじめに
漢方医学は純粋に治療学であると言えよう.個々の生薬の薬効の発見から始まり,生薬の組み合わせによる効能が確認されたものが現在も使われている.極端に毒性のあるものや,急性期にまったく効果のないものは,長い年月の間に淘汰されたと考えてよい.
そもそも漢方薬は,いわゆる西洋薬と異なり,単一成分のみではない.1つの生薬ですら多成分であり,さらに処方自体は超多成分系であり,いずれも含有量は微量である.西洋薬のように大量の単一成分が特定の部位に作用して治すのではなく,たくさんの成分がまとまって病態に介入し,患者の身体が治るような組み合わせを試行錯誤し,長い年月をかけてまとめ上げたものが漢方薬と言える.
疾患を「原因—病態—症状」という一連の流れで説明するとすれば,漢方薬はこの「病態」に介入して治癒に仕向ける効果をもつと考えるとよい.したがって,病態が同一であれば,異なる疾患であっても適応になるし(異病同治),同一疾患でもそのときの症候の元となる病態が異なれば,それに応じた処方が適応となる(同病異治).
漢方治療を学ぶ上で煩雑なのは,処方を選択する際,根拠となるソフトウェアが複数あることが原因であろう.基本概念は八綱(陰・陽,虚・実,寒・熱,表・裏)であり,急性期発熱疾患には六病位というソフトウェアを,非発熱性疾患には気血水というソフトウェアを適用させる.これに五行説や臓腑説が加わるが,そもそも科学に立脚しない哲学という側面があり,作用機序を漢方医学的に説明されても,現代医学を修めた医師にとってはなかなか納得できないことが多いと思う.
そこで本稿は,先人が積み上げた知恵を拝借しながら,作用機序が解明されつつある処方を中心に,どのような病態に漢方が適応できるか,脳神経外科領域に絞って解説してみようと思う.
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