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はじめに
今日,認知症とは「獲得された知的機能の後天的障害によって生じた生活破壊」として理解されている4)。基本的な知的機能,すなわち記憶・学習(Memory),見当識(Orientation),言語(Language),視空間機能(Visuospatial function),注意・判断(Attention/Judgement)が健全にかつ有機的に稼働することで日常生活を支えていると考えるからである。認知症患者では,「この基本的な認知領域の中で,記憶・学習機能を含め少なくとも2領域の障害がみられる」というのが現在に至るまでの認知症の基本的な考え方である。
側頭葉内側はPapetzの回路に重要な海馬や嗅内皮質を含むepisodicな記憶機能に,側頭葉外側は言葉と物や概念との対応関係などの意味記憶や言語機能に,前頭前野は注意分散や実行機能に,頭頂葉は視空間認知とその行動の遂行に必要で,後頭葉はこれらをつなぎ映像を作る脳である。
認知症とは,大脳の広範な機能解体現象と考えられ,これらを総じて,認知症の「中核症状」と呼ぶ。一方,そのような認知機能障害を有する患者が周囲の環境や人々とのかかわり合いのなかで示すさまざまな反応が周辺症状であり,これには感覚,思考内容,気分,行動などにおける異常な兆候や症状が含まれてくる。1996年に国際老年精神医学会は,これら周辺症状に対してBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)という用語を用いることを提唱した1)。
認知症において従来研究者が注目してきたのは主として中核症状であるが,実際患者を介護する家族にとって最も深刻な問題となるのはむしろ他の精神症状,すなわち抑うつ,無意欲,不安,焦燥,幻覚,妄想,脱抑制,昼夜逆転,徘徊,易怒,介護への抵抗,暴言などである。Tanjiらは,認知症患者を抱える家族に面接をし,介護負担感の比較的重い群と軽い群におけるさまざまな要因を比較した7)。その結果,介護期間,介護者の性別や年齢,認知障害の重症度,ADL低下度は介護負担感に影響を与えず,BPSDが介護負担感を強める最大の要因であり,BPSDが重症であるほど重い介護負担となっていた。さらに重い介護負担感は,介護者のうつ的傾向と相関した。介護負担の軽減を図るには,まずこのBPSDへの対策が第一となる。周辺症状という言葉の意味はあいまいでless importantという印象を与えかねないので,ここでは周辺症状ではなく,BPSDを用いることにする。
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