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編集後記
寳金 清博
pp.904
発行日 2016年10月10日
Published Date 2016/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436203399
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日常診療に追われていると,社会と科学のデリケートな関係を,あまり深刻に考えることはない.一方で,最近,生命倫理や利益相反,レギュラトリーサイエンスなどが注目され,身近に考える機会が増えている.本号の扉では,馬場啓至先生が「てんかん外科40年の歩み」を書かれており,改めて,私たちの専門とする「脳神経外科」が,社会との関係において難しい問題を抱えて来た歴史の一面を知ることができる.
少し視点は異なるが,防衛省から競争的な科学研究費が提供されることが明らかとなり,私が所属する日本学術会議でも議論となっている.「てんかんの外科」は,アカデミアが,人格という不可侵の領域に接近したポイントで,社会と衝突した.一方,防衛省予算による科学研究の問題は,社会(政治)が特別な入口から,科学に接点を持とうとしているという意味で,別の議論を引き起こしている.今更ながら,「学問の自由」は,放置すると社会の公益を破壊する力がある一方で,社会の公益性が前面に立つと,それを利用する形で,アカデミアが不健全になることも私たちは歴史から学んできた.さらに「学問」「科学」と「政治」「社会」がつながることで,大きな進歩と同時に筆舌に尽くしがたい悲劇がもたらされることを歴史は実証してきた.
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