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天気予報が当たらない.豪雪とまではいかないが,雪の多い札幌に住む私は,朝,自分の車で運転して行くか,地下鉄で行くかは,天気予報を頼りに決めている.大雪の予報であれば,地下鉄と決める.深夜に帰宅する私にとって,雪に埋まった車を掘り出すのは,難行苦行であるし,人里離れた田舎にある私の自宅周辺では,迅速な除雪は期待できず,これまでも,何度も,自宅を目の前に,図体だけが大きな愛車が雪に埋まり,身動きできなくなる悲劇に遭遇している.車は便利であるが,天気予報が雪となれば,地下鉄の選択となる.ご存知かもしれないが,当然のことながら,気象学もデータベースになり,いわゆる超高速のスーパーコンピューター(スパコン)が,沸騰するような熱を発生しながら必死に天気予報をする時代である.「京」のようなスパコンが必要な理由はこのあたりにもある.がしかし,その予報は,長期予報はともかく,その日の限られた地区の予報ですらさっぱり当たらない…と思うのは,その日の交通手段の選択決定を頼っている私1人ではないように思う.
やや,アカデミックな話になるが,ローレンツの「バタフライ効果」で知られているように,気象は典型的な複雑系であり,初期条件のほんのわずかな違いが,大きな結果の隔たりを発生させることが知られている.天気予報の精度が100%になるには,現代科学にコペルニクス的革命が必要であることは容易に想像される.その結果,国際情勢,経済の変化,選挙結果まで,高い確度で予想される可能性はある.それは,おそらく医学にも革命的な変化をもたらすと想像される.ただ,その日は遥かに遠い.臨床医学に日常的に関わっている私たちは,医療の不確実性をいつも痛感している.天気予報よりはましかもしれないが,ベッドサイドではいつも思いがけない結果に遭遇して,狼狽することも多い.臨床医学は複雑系の科学の代表であり,様々な視点のエキスパートであるべきということは論を俟たないと思う.
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