先達余聞
Percival Bailey
半田 肇
1
1京都大学脳神経外科
キーワード:
Percival Bailey
,
Neurosurgeon
,
Mister Neurology
Keyword:
Percival Bailey
,
Neurosurgeon
,
Mister Neurology
pp.538-541
発行日 1981年3月10日
Published Date 1981/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201320
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
疎水を渡って大鳥居をくぐると早朝のしじまに砂利道を踏みくだく音がこだまし,透明に晴れわたった紺青の空に応天門の碧瑠璃の瓦があでやかに輝いて見えた.京都大学外科の荒木千里教授が,彼のシカゴ留学時代の師であるPercival Bailey教授を10年ぶりに迎え,京都滞在の一日,まず平安神宮へ伴った日のことである.終戦後4年目を迎え,ようやく世の中が落着きはじめた1948年の初秋の日曜日であった.
神苑へ入る門がまだ閉されていたので困惑した表情で二人は暫く佇んでいたが,ふと思いつきBailey教授を促して裏門へ廻った.くぐり戸を開けると,逍遙式庭園が早朝のやわらかい日射しに包まれて眼の前に展開した.春の紅枝垂桜のあでやかさと5月の白虎池の菖蒲の見事さを説明していると,灌木の蔭に何か白い物が見えた.Bailey教授はつかつかと歩み寄り,"これはアメリカ兵の弁当の包紙だ,アメリカ兵が棄てたものだ"と,渋面をし,つぶやいた.午後は洛西方面へドライブを企画し,竜安寺の石庭を見た後,嵐山の苔寺に降りた.門前にジープが1台停っていた.庭内は静寂がたちこめ,緑の濃淡がアラベスク模様を描いていた.Bailey教授はこの庭が一番気に入った風であった.背後にカン高い声が聞こえ,ふりむくと米兵とパンパン娘とがふざけあっていた.彼は世にも情けなそうな表情で詑びるように弟子の顔をみつめた.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.