扉
10年後の脳神経外科に望む
稲葉 穣
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1東京医科歯科大学脳神経外科
pp.273-274
発行日 1974年4月10日
Published Date 1974/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436200174
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脳神経外科は,ここ10年間でどのように進歩・発展したであろうか.10年前の国内外の専門誌を開いて,今日のわれわれの日常診療状況と対比してみると,機械器具等の物的,技術的な面で大きく進歩していることがわかる.その反面,診療の内容的な面では,未解決の問題としてとりあげられた多くの重要事項や主題において,進歩どころではなく,ほとんど膠着状態にあることに,今さらのように驚かされるのである.情報社会における競合に影響され,進歩というよりはむしろ啓蒙・普遍化といった方が妥当なことを,あたかも全く新しい開発であるかの如くに伝えたり,基礎科学や他の領域における成果の応用的導入を,脳神経外科,個有の貢献であるかの如く,無知の人々を欺いていることになっていないであろうか.そのような在り方自体が学問や実地診療における真の進歩や発展を妨げる要因につながっている.
過去10年間におけるわが国の脳神経外科の経過を考えると,進歩よりはむしろ普遍化が大きかったと言えよう.しかしながら,真摯な脳神経外科医によって,わずかではあるが着実な進歩がなされたことも確かである.欧米において始められた顕微鏡下脳神経手術における進歩はまさに,この10年間の画期的な一大革命であり,新しい世界を拓いたものと言える.脳神経外科の進歩を評価する基準は,それがいかに,どれだけ患者の治療に役立ったかという点におかれるべきであって,脳神経外科で扱われた患者数の増加などにあるのではない.
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