連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・126
望まない妊娠であっても
冨田 江里子
1
1バルナバクリニック(フィリピン)
pp.82-83
発行日 2015年1月25日
Published Date 2015/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665200109
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ジャスミン(18歳)は叔母を名乗る女性と2人で,数か月前に私の家の近所に引っ越してきた。女性2人だけで部屋を借りているのも珍しく,そのうえあまり外に姿を見せない。近所の人と話をしている姿も見かけるが,どこか隠れているような静かな印象だった。
診療を終えていつものようにジャスミンの家の横を通り抜けると,後ろから声がかかった。「ねえ,あなたのところでお産できるの?」。ジャスミンと一緒に暮らす年配の叔母だった。「もちろんできるよ。お金のない人のお産場所だから」。叔母は何か言いたげだったが,とりあえずお産できることがわかってほっとしたように「じゃ,この子のお産になったら連れて行くね!」とその日の会話は終わった。それからも,何度かジャスミンや女性の視線を感じることはあっても,彼女たちから声をかけられることもなく,目が合えば会釈をするぐらいの関係だった。
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