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最近では,脳神経外科の分野でも比較的若いうちから指導医の下,術者として手術に携われる機会が多くなってきているように思います.各種off jobトレーニングも盛んに行われ,若手医師が多く集まり盛況のようです.三重大学病院でも各種シミュレーターが揃い,血管内手術の仮想トレーニングも可能になりました.また,脳神経外科専門医を取得する年代の若手は競ってラットを用いた微小血管の吻合練習をしています.これらは若手脳神経外科医のモチベーションを上げ,さらには脳神経外科に興味をもつ次世代を引き付ける目的で発展してきました.脳神経外科医を志したからには,早く術者として一人立ちしたいという気持ちは当然で,よくわかります.一方で,取り越し苦労ならよいのですが,どうも若手の関心が手術手技の獲得に偏りすぎて,病態の理解や術後管理,化学療法や放射線治療など,手術以外の重要な事項への関心が薄くなっているように思えてなりません.つまり,患者管理や治療を誰かから教えてもらった通りにルーチンワークとしてこなしているだけのように思えて仕方がないのです.関心が高い手術手技に関しても,現在の若手脳神経外科医の多くは,独創的なことにチャレンジするより,誰かが見いだした手技や治療法を習得することに腐心しているようです.確かに一口に脳神経外科と言っても,subspecialtyは多岐にわたり,あれもこれもと欲張ると,一通り習得するだけで精一杯というのもうなずけます.しかし,教科書や有力者の意見に従うだけでは医学は進歩しませんし,学習したことを反復するだけではプロとは言えません.日々の診療で問題点を見つけ,解決していく探究心が大切で,治療成績の改善を目的として,治療や患者管理に創意工夫を絶えず実践し続けてこそ,プロと言えると考えています.誰に強制されるわけでもなく,自然と勤務時間外に手術の練習をしたり,いろいろと調べ物をしたりするのはプロ意識の現われだと思うのですが,考え方が古いのでしょうか.もちろん独り善がりでは駄目で,知識に裏打ちされた独創性が必要ですし,自分で考えた工夫が妥当かどうか確認するためにも学会や論文などで発表し,批評を仰ぐ必要があります.こういった一連の過程を私は広い意味で研究と考えています.言い換えれば,脳神経外科の道を究めるということです.もちろん,真の意味で病態の解明,新しい診断法や治療法,デバイスの改良や開発などを行うためには基礎研究が必要です.
偉そうなことを言っていますが,私自身は元々,研究志向はありませんでした.入局当時の教授の方針により,大学院へ「強制入学」させられ,研究を始めました.研究テーマは友人に誘われ,スパズムにしましたが,特別興味があったわけではなく,サルの脳で顕微鏡手術の練習ができるのが魅力的に思えたからでした.当時,実験用に使用していたニホンザルはヒトの新生児~1歳児に相当する体重で,ヒトと同じように全身麻酔下に手術をしたわけですが,指導通りに実施したにもかかわらず,屍の山を築いてしまい,指導教官に随分叱られました.原因は簡単で,われわれより以前の大学院生は片側前頭側頭開頭を行い,1側のM1周囲に血腫を留置するモデルを作成していたのですが,われわれは両側開頭・両側血腫留置モデルを恐らく世界で初めて採用したために,それまでと同じ周術期管理では対応しきれなかった,という単純なものでした.ほかにも,イヌで経口経斜台的に脳底動脈を露出したり,ラットでくも膜下出血モデルを作成しました.同級生や中国人留学生の手伝いを含めると,全部で4つの動物実験に関与しましたが,研究に託けて手術の練習をすることに気を取られ,研究本来の目的はまったく達成できていなかった気がします.基礎研究は,それこそ「世界で初めて」に価値があるわけですが,当時は自分のデータそのものを考察せず,自分のデータを当時の主流な考えや過去の報告と一致させることばかり考えていました.そんな心構えですから研究は少しも楽しくなく,学位論文ができたら,すぐ臨床に戻るつもりでした.
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