コラム:医事法の扉
第44回 「誤診・見落とし」
福永 篤志
1
,
河瀬 斌
1
1慶應義塾大学医学部脳神経外科
pp.1260
発行日 2009年12月10日
Published Date 2009/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436101079
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法学部の学生に医療過誤の実例を挙げよと質問すると,すぐに「誤診」という答えが返ってくるそうです1).「見落とし」も同様と考えられます.たしかに,「誤診・見落とし」というと,何か医師の初歩的なミスのようなイメージがあるかもしれません.しかし実際には,診断そのものが困難である症例も珍しくありません.それでは「誤診・見落とし」とは,法的にどのような状態を指すのでしょうか.医師は,日常診療業務において,誤診・見落としと常に背中合わせの状態にあり,どのような状況下で誤診・見落としに陥りやすいのかなど注意すべき点について検討する必要があります.
一般に,医師が患者の単純X線やCT・MRIなどの画像フィルムを見て行った診断が誤っていた状態が「誤診」であり,疾患を指摘できなかった場合は「見落とし」となります.診療契約(民法656条)上,医療従事者は,善管注意義務2)(644条)を負いますから,履行補助者である医師が的確な診断をすることは,原則として,善管注意義務の1つと考えられます.そうすると,誤診・見落としは,善管注意義務違反となってしまいそうです.しかし,善管注意義務を果たしたかどうかは,診療当時の医療水準3)を基準として判断され,具体的には医師個人や診療機関に応じて期待された診療レベルに達していたかどうかが問題となります.そうすると,誤診・見落としであっても,当時の医療水準よりも高度な診断技術を要するような場合には,必ずしも善管注意義務違反に問われるわけではないということになります.
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