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Ⅰ.はじめに
結節性硬化症(tuberous sclerosis,以下TS)は先天性の過誤腫的異常で,多臓器,特に中枢神経系を侵す常染色体優性遺伝性疾患であるが,遺伝が認められるのは約1/3であるという4).9番染色体(9q34)のTSC 1遺伝子はhamartinという蛋白をコードし,16番染色体(16p13.3)のTSC 2遺伝子はtuberinという蛋白をコードするが,大半はそのどちらかの遺伝子の突然変異が原因と考えられている3,4).両翻訳蛋白は複合体を形成し,細胞分化や増殖に関連した細胞内情報伝達系としての生理活性を有する.そのため,どちらの遺伝子に突然変異が生じてもTSとしての臨床発現をすることになる6).孤発例ではTSC 2遺伝子の突然変異が一般的であり,その場合は臨床的な重症例が多いという7).TSの頻度は4.9/10万人とされている4).てんかん,精神発達遅滞や皮膚症状(angiofibroma,Fig. 1A)が臨床的三徴とされているが,三徴がそろうのは29%でしかないという8).てんかんの発症頻度は80%前後3,4,8)と高率であり,2歳未満で発症すると精神発達遅滞が生じやすい.発作型としては,infantile spasmが一般的であるが,70%の小児例が5歳から20歳までに複雑部分発作に移行する26).2歳以降の発病では複雑部分発作や二次性全般化発作をもつ5).5個以上のtuberをもつ患者は難治性てんかんや知的発達障害を来しやすく20),tuberの数は臨床的重症度と関係していた1,11).
TSは,MRIで皮質結節あるいは皮質下結節(cortical or subcortical tuber,以下tuber)のほかに脳室上衣下結節(subependymal nodule)などの多発病変を有しているために,その診断は比較的容易である.さらにCTで多発性の石灰化腫瘤として認められれば,確定的である.しかし逆に,てんかん症例の場合は多発病変のどれがてんかん原性を有するtuberかという焦点局在診断の面から従来の術前評価では困難なことが多く,TSの外科治療の試みは遅れていた.Jansenら13)によれば,最近のシリーズでも25例のうち外科治療が行われたのは6例であったという.その理由としては,発作が補足されなかったり,発作起始領域が局在化できなかったり複数あったり,脳波や脳磁図(magnetoencephalograpy,以下MEG)が一致しなかったなどがある.多発tuberの1つが常にてんかんの原因になっている症例があり,それをresponsible tuberあるいはepileptogenic tuberというが,それを同定できれば,外科治療の大きな動機付けとなる.MEGが登場して,等価電流双極子(equivalent current dipole,以下ECD)を解析してECDが1つのtuber近傍に集積する場合は,焦点を示していると解釈されるようになった12,16).しかしMEG解析から,てんかん原性tuberと焦点は完全に一致せず,焦点はtuberの周辺部に存在することが明らかになっている.てんかん原性領域に対するMEGの感度や精度が発作時ビデオ脳波に対して有意に高いことが報告されている12,25).また切除されたtuberの病理組織が限局性皮質形成異常(focal cortical dysplasia,以下FCD)のtypeⅡBと類似している点も注目されている.Beckerら2)はFCD typeⅡBとTSC 1遺伝子変異との関係を報告したが,しかし,両者のてんかん原性はまったく異なり,TSの場合は腫瘍性のてんかん原性病変に類似してtuberの周辺にFCDの組織が併存して焦点になっている可能性が示唆されている.したがって,TS症例におけるてんかん外科の成否は焦点局在推定の成否に依存することが明白である.
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