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国の財政破綻が予想される中,平成16年4月に国立大学が法人化され1年が経った.政治と行政の失政によるつけを大学の教育研究診療の現場に押しつける方策であり,国の理不尽な仕様に憤りを感じながらもとにかくスタートした.法人化前には人事および財政面で法人の裁量権が大幅に認められるとの情報もあり,結果責任さえ果たせば新しい国立大学のスタイルとして容認できるかもしれないと考えていた.病院の運営を預かっている立場から現状を述べてみたい.法人化後,淡い期待は見事にはずれ常勤職員の定員の増員はまったく認められず,それを補うには非常勤職員増によって病院を運営するしかない.一方,経営努力によって得られた剰余金は病院で自由に使用できるという情報もあったが,剰余金の認定を受けるには財務および文科大臣の承認が必要であり,法人各部局で剰余金をどのように取り扱うかコンセンサスを得なくてはならずこの雲行きも怪しくなってきた.すなわち,法人化により何らメリットがないというのが現在の実感である.
法人化のスタートにあたり診療医師の勤務体制が人事院規則から,労働基準法(週40時間勤務,当直週1回,日直月1回,時間外勤務は年間360時間以内)に変更された.そのため時間外,休日,年末年始などの長期休院時には実際に診療にあたる医師不足が発生し,医療の質が低下しており,重症の急患に対応できなくなるなど急性期病院として充実を目指す大学病院にとって重大な問題が生じている.事実,関係医療機関から多くのクレームが寄せられている.一方,助手以上の常勤医の当直日数が減少し,また,時間外勤務手当の制限により彼らの収入は大幅減となり不平不満でいっぱいである.法人化前でも国立大学病院の医師手当は他の公立病院に比して低く設定されていた.他の病院より安い給料で従来以上の教育・研究・診療のアクティビティを維持せよというのはどう考えても不合理であり,優秀な人材が大学外へ流出することを危惧している.常勤職員の定員増は不可のため,非常勤職員の増員で病院診療はやっと運営されている状況である.しかも任期付きの非常勤採用ではこれまたよい人材が集まらない.大学病院に優秀な人材を集中させるべく非常勤職員の常勤化を含めいろいろ策を練っているが妙案はない.
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